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「健康経営」最前線。「健康経営銘柄2021」の事例に学ぶ行動変容を促す施策と投資ポイント

健康経営と聞いてどんなイメージが浮かぶでしょう。「経営」という言葉のとおり、「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること、と定義されています。新型コロナウイルスによる非日常は「会社に通勤すること」という当たり前の価値観を変えただけでなく、感染リスクがあるため通院がままならないことで、セルフケアの重要性を問い直す契機にもなっています。従業員が抱える健康課題を知り、健康経営に活かす取り組みにつなげていくために、最新の取り組み事例から、健康経営に取り組むうえでの重要なポイントをご紹介します。

※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です

健康経営とは

「健康経営」とは、英語では、Health and Productivity Management といいます。従業員がいきいきと仕事に取り組むことで、生産性が向上するだけでなく、病気になった際、企業が負担する医療費が減少することで利益率が高くなる、好循環が生まれる。従業員の健康管理が企業にとって重要であると説いた思想です。

「健康経営」が提唱されたのは1980年代ですが、健康経営は、国が掲げる「日本再興戦略」のなかで、高齢化社会に向けた健康寿命を延伸する取り組みのひとつであり、日本健康会議が健康経営への取り組みを行う企業を評価・認定する制度「健康経営優良法人認定制度」では、「健康経営優良法人2021」として、大規模法人部門1,801法人、中小規模法人部門で7,934法人が認定され、その規模は年々大きくなっています。

健康経営に投資することで得られる5つのメリット

では、健康経営を行うことは、企業にとってどんな効果が得られるのでしょうか。従業員が健康である、とはどんな状態を指すのでしょう。WHOは、「健康」とは「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」と定義しています。

長時間労働の常態化、有給休暇の未消化、うつ病などメンタルヘルスの問題の増加が叫ばれる中、労働環境とそこで働く人の健康管理を企業が経営的な視点で捉えていくことにより、働く人を活かし、生産性を向上させ、企業の発展ひいては社会課題の解決が見えてきます。

定期健診だけでは足りない

「年に1度従業員への定期健診を行っている」という企業は多いでしょう。では二次検査の受診率は把握していますか? 2008年から生活習慣病の予防を目的に、40歳~74歳までを対象にした、特定健康診査(通称:メタボ健診)が導入されましたが、専門スタッフからの指導を受けるかどうかは、個人の判断にゆだねられています。健診後の再検査なども同様に個人の意思が尊重されます。健診を受けているだけでは足りません。従業員に健康に対する教育を実施するなど、会社全体で「健康意識」を高めていくことが健康経営の目的です。

健康経営に投資する企業が得られるメリット

①生産性の向上

頭痛や病気の回復期など体調があまりよくない、という状態でも軽度であれば、出勤を選択する方が多くあります。体調不良によってパフォーマンスが低下することをプレゼンティーイズムと呼びますが、プレゼンティーイズムによる損失は無視できない金額と言われています。また、病気の場合は、他の社員にうつしてしまうリスクも伴います。

従業員が健康であれば、プレゼンティーイズムの解消や、体調不良による欠勤の低下につながり、生産性が向上します。

②医療コストの削減

「健康経営優良法人」に対して、認定後の変化や効果についてアンケートを行ったところ、大企業、中小企業ともに「自社内での意識の高まり」が最も高い結果となっています。「定期健診の受診率を徹底するだけではなく、産業医と連携し、健康に関する教育を行うなど、健康投資により疾病予防を行うことで、傷病手当の支払額を減少させることができます。それは長期的に医療費の抑制につながります。

③モチベーションの向上

経済産業省がまとめた調査によると、健康経営をしている企業では、していない企業に比べて離職率が低い傾向がみられます。2018年の全国の一般労働者の離職率が11.3%に対して、健康経営銘柄2020の企業では、2.7%という結果でした。離職率の低さのほかに、有給取得率、有給取得日数が高い傾向もあり、従業員のQOL(Quality of Life)が向上することで、仕事へのモチベーションが高まるのです。

④リクルート効果

株式会社パーソル総合研究所による調査で、日本人は、職場の人間関係・休みやすさを重視する傾向があるという結果があります。また、就活生および就職を控えた学生1,399人を対象にした、「将来どのような企業に就職したいか」という調査では、「従業員の健康や働き方への配慮」が43.8%という高い結果となっています。健康経営を宣言することは、就職人気ランキングの順位を上昇させ、採用を有利に行う効果をもたらします。

⑤企業のイメージアップ

健康経営に取り組んでいるということは、「従業員を大事にしている」というイメージにつながります。また、経済産業省は「健康経営優良法人認定制度」により、健康経営に取り組む企業を顕彰しています。健康経営を「見える化」することで、優秀な人材を確保できる、取引先や投資家から高く評価をされる、メディアへの露出が増加するなどブランド価値を向上させることができるのです。

ESG 投資における健康経営の位置づけ

ESG投資とは、「E=Environment:環境」、「S=Social:社会」、「G=Governance:企業統治」という3つの領域に対する企業の取り組み姿勢を考慮して行う投資のこと。健康経営は、ESGにおける“S”に位置づけられます。
欧米の投資家の間では、健康経営への取り組みを重視していますが、日本においては、ESG投資の歴史が浅いこと、中長期的な株価・業績パフォーマンスの優位性が十分検証されていないことなどの理由から、健康経営の位置づけを強め、投資家へのアプローチを進めることが今後重要とされています。

機関投資家の中には、既に健康経営優良法人(ホワイト500)認定の有無をESGの評価基準に組み入れているところもあるなど、施策としての位置づけは今後高まっていくと見られています。

健康経営をはじめるためのステップ

健康経営を行うことは、従業員の意識・行動変容につなげる環境を整備することです。健康経営をはじめるためには、まず会社のトップが率先して健康経営を理解し、普及するためのアクションを起こすことから始まります。

①健康宣言を行う

  • 企業ビジョンに健康経営を掲げる
  • ニュースリリースやホームページなどでの発信する

〈健康経営優良法人の認定を受けるには〉
健康経営優良法人の認定を受けるには、大企業の場合は、健康経営度調査(年6回実施)に回答するとエントリーできます。中小企業の場合は、協会けんぽや健康保険組合連合会などが実施している「健康宣言事業」に参加します。詳しくは加盟している保険者にお問い合わせください。

②組織体制を整備する

  • 専用の担当者・健康づくり責任者を置く(役員以上)
  • 健保など保険者と連携

従業員の健康管理を行うための責任者、担当者を選定、部署を新設するなど組織を作ります。必要に応じて、外部のアドバイザーによるサポートや研修の実施なども検討します。

③従業員の健康課題を把握する

  • 健診受診率の把握
  • ストレスチェックの実施
  • 残業時間や課題を部署事にヒアリング

従業員がどんな課題を抱えているかを、健診受診率やストレスチェックを実施して洗い出します。問題に対して、具体的な健康支援を行うことが肝要です。

④具体的な目標設定と実行

健康に関する課題が明らかになったら、課題解決のための具体的な対策を決定します。

例えば、長時間の残業が顕著であれば、ノー残業デーとして早期退社を促したり、テレワークを導入するなどもひとつの対策です。改善したい課題に対する目標設定を行い、社内に告知しましょう。実行後に結果がどうだったのか、検証することで次のアクションにつながります。

お手本にしたい健康経営銘柄企業の取り組み事例

健康経営銘柄とは

東京証券取引所上場会社を対象に、評価基準に基づいて選出された「健康経営」に優れた企業のこと。2021年は、29業種48社が選出されました。健康経営のお手本となる健康経営銘柄2021の中から取り組み事例をご紹介します。

健康経営銘柄2021

コニカミノルタ株式会社

グループ健康宣言「いきいきと働くことができる職場(会社)を目指して」の中で、会社が健康を尊ぶ労働環境づくりを推進するとともに、従業員にも健康第一の企業風土醸成に向け積極的な参加を呼び掛けています。2021年で6回目の選定と健康経営の見本といえる企業です。

〈特徴〉

  • 会社と健保組合のリソースを最大限活用できるよう、ワン・マネジメント体制で運営
  • 人事部長が健保理事長を、人事部の健康管理責任者が同常務理事を兼務。経営層も含めて迅速な意思決定が可能な体制
  • 産業医と保健師や健保組合の保健事業とコラボ。と高度なデータヘルスに基づく施策を実施
  • 社内の交流活動「ネットワーキング」を推奨。会社施設の利用推奨や飲食代の補助を行い、全社員の半数以上が参加

〈結果〉

「最もリスクの高い従業員数」は2013年度→2019年度で84%減少
メンタル不調による休務日数は2014年度→2019年度で35%減少

味の素株式会社

企業理念に「地球的な視野にたち、“食”と“健康”、そして、明日のよりよい生活に貢献します」を掲げ、EGS・サステナビリティに積極的に取り組んでいます。

〈特徴〉

  • 従業員自身が健康に対する高い意識・知識を持って取り組む「セルフ・ケア」の定着を目指し、2018年度からは独自に作成した「セルフ・ケア度調査票」に基づいて、全社で経年比較をスタート
  • 「働きがいの充実」を重視した活動を展開。「従業員の働き甲がい実感比率80%+α」を2020年度のKPIに設定
  • エンターテイメント性のある定期健診を実施

〈結果〉

  • セルフ・ケア度の高い(85点以上)従業員構成比は2019年度12.3%(前年12.1%)、セルフ・ケア度の低い(50点未満)従業員構成比は同7.6%(前年8.9%)に改善

キヤノン株式会社

創業期から受け継がれる「健康第一主義」のもと、グループ共通の中期計画に基づいて健康支援活動を展開。

〈特徴〉

  • メタボ該当者・予備群が年々上昇していることから、10年間 の健診データ分析に基づき、喫煙、食事、運動習慣に着目した 取り組みに注力。
  • 特定保健指導の強化。年代別の健康課題をテーマにeラーニングを実施
  • ICTツールを活用したウォーキングイベントや、全事業所食堂でのヘルシーメニュー提供
  • オンライン禁煙外来を導入し、健保組合が費用を補助
  • メンタル不調や生活習慣病対策として「睡眠キャンペーン」を2007年から実施・継続

〈結果〉

  • 喫煙率が2020年までの10年間で11ポイント減少
  • メタボ該当者・睡眠時無呼吸症候群のリスク者向けに、機器による睡眠状況の見える化と指導を行うなどした結果、BMIや血圧の数値が良化。睡眠講話による意識改革なども行ったことで、プレゼンティーイズムが改善

トヨタ自動車株式会社

『健康への取り組みは「従業員の幸福」に繋がる時代に左右されない普遍的な活動』と位置付ける、「健康第一の会社を目指す」とする健康宣言のもと、ひとりひとりの生活習慣改善チャレンジを積極的に支援。

〈特徴〉

  • 2017年から「健康チャレンジ8」として従業員ごとに8つの生活習慣改善に取り組む
  • 業務効率化に向けた活動や休暇取得の推進等を通じ、メリハリある働き方を推進
  • 4年ごとに家族と一緒に人間ドック相当の健診ができる健保共同事業施設を運営。ヘルスリテラシーの向上につながる仕掛けとフォロー。低カロリー食や正しい運動を体感する学びの機会を提供し、健康意識が高まるよう工夫

〈結果〉

  • 2019年度は運動習慣者比率が2016年度比10.7ポイント増、喫煙率は2.6ポイント減と改善
  • 2019年度の年次有給休暇取得率は91.4%と高い中で、2年連続で増収増益

Zホールディングス株式会社 

経営トップによる健康宣言「UPDATEコンディション」―働く人の身体の健康(安全)と心の健康(安心)をUPDATEする―を社内外に公開。

〈特徴〉

  • 健康宣言の実現に向け、就業規則に健康経営の条項を明記
  • YG健保とコラボヘルスを行い、健診結果に基づき健康施策の定量・定性(アンケート・インタビュー)データを利活用したPDCAサイクルを導入
  • 社内レストランで、統計化された喫食データをもとにメニューを改善するなど、従業員の健康を管理・支援

〈結果〉

  • 健康増強月間としてアプリを活用したウォークラリーやマインドフルネスなど、さまざまな施策を実施。参加者の63%が行動変容につながったと回答
  • 2019年10月の消費税増税のタイミングに合わせ、脂質の高いメニューの値上げと、魚料理の値下げ「揚げ物税・お魚還元」施策を開始したところ、魚料理の喫食数が増加

テルモ株式会社

グループ横断の「テルモ健康経営推進チーム」を組織し、健保組合とのコラボヘルスを実施。

〈特徴〉

  • 「喫煙率の低減」「メタボ率の低減」「がんの早期発見・早期治療、職場復帰」「ウィメンズヘルス」「自発的取り組みの奨励」の5項目について、重点を置いた施策を展開
  • 生活習慣病対策のため、二次検診を徹底

〈結果〉

  • 管理職研修だけでなく、新入社員研修でも教育機会を設け、女性のがん健診受診率が上昇傾向にある
  • 各事業所の産業保健スタッフと人事部門が連携し、個別の受診フォローを実施。2019年度は92%の受診率となった

株式会社島津製作所

2017年に「島津製作所健康宣言」を発表し、経営理念に掲げる「人と地球の健康」の実現に向けて取り組んでいる。

〈特徴〉

  • メンタルヘルス、食生活、感染症対策などテーマごとに専門サイトを設けて的確な情報提供を行い、健康づくりの「見える化」を推進。Webソリューション「kencom」を導入し、健康データを可視化。
  • ストレスチェックの結果を分析し、「いきいき職場」「マイペース職場」「へとへと職場」を職場ごとに判定。
  • 運動、食事、禁煙、こころ、睡眠の5つの分野における健康維持増進活動「ミル・ミル・Genki」活動を全社的に展開。

〈結果〉

  • 環境改善が必要な「へとへと職場」には臨床心理士などの専門職がフォローを行い、活性度を上げたい「いきいき職場」にはアクションプランを策定して支援を実施
  • 毎日の歩数や健診受診などに対してインセンティブを付与するなど、「kencom」への登録率100%を目指して取り組み中
  • 京都マラソンへの参加、ヨガ口座講座の開催

企業が実施している健康経営の施策と平均投資額

健康経営に取り組む企業の取り組み事例をご紹介しました。では、それぞれ実施している施策はどんなものがあり、どの程度の投資を行っているのでしょうか。経済産業省が実施したアンケートの回答をご紹介します。

健康経営の施策として実施しているもの

1.健康経営の体制整備や制度整備
a. 健康管理システム等の導入・刷新
c. 法定の定期検診実施・支援(健診手配または精算事務代行など)
e. ストレスチェック実施に係る経費
b. 健康相談窓口の設置
d. 法定健診以外の各種検診または人間ドック実施委託
f. 健康経営戦略や計画立案のための外部コンサルタントによる支援に係る経費
g. 産業医への委託費(※社内雇用している場合は社内人件費へ)
h. 健康経営課題の把握のための調査・分析に係る経費
2.健康リテラシーの向上に係る取り組み
j. 社内セミナー・研修に係る経費
k. 社外セミナー・研修に係る経費
l. 社内報・啓発チラシ等の作成経費
3.心身の健康のための取り組み
■ ポピュレーションアプローチ
n. 運動習慣定着に関する施策の運営経費(社内ジム等の運営経費など)
o. 食生活改善に関する施策の運営経費(社員食堂等の運営経費など)
q. 健康イベント等に係る経費(社内実施や社外参加など)
p. その他の施策の運営経費
r. 従業員本人に対する補助(スポーツクラブへの補助など)
■ハイリスクアプローチ
t. 保健指導の実施に係る経費
u. ストレスチェック以外のメンタルヘルス不調者への対応にかかる経費
v. 復職プログラム導入・運営等に係る経費

食生活改善に関する施策の運営経費が最も高い

従業員一人当たりの平均投資額を集計したところ、最も高いのは、「食生活改善に関する施策の運営経費に係る費用」(69,352円)でした。心身の健康のための取り組みのうち、ポピュレーションアプローチに対する投資額が高いことがわかります。

ポピュレーションアプローチとは、リスクの改善のために集団全体に働きかける取り組みのこと。高い健康リスクを抱えた小数への取り組み=ハイリスクアプロ―チに対する概念です。予防医学には、「予防医学のパラドックス」があり、「小さなリスクを負った大多数の集団から発生する患者数は、大きなリスクを抱えた小数のハイリスク集団からの患者数よりも多い。」という統計学的な事実があります。

健康寿命を伸ばすために、予防医学の観点からのアプローチは難しくありません。例えば

  • 定期的に健康診断を受ける
  • 高血圧の予防のため、塩分摂取量を減らす
  • 健康維持のため、バランスのよい食事をとる
  • タバコを吸わない
  • 適度な運動を行う

といった当たり前にできる対策の徹底により、「多くの人がほんの少しリスクを軽減することで全体には多大な恩恵がある」のです。健康経営の投資においては、この2つのアプローチを意識しながら、対策を講じていく視点が必要になります。

※参考:『予防医学のストラテジー』(ジェフリー・ローズ/医学書院)

ポピュレーションアプローチにつながる福利厚生の例

  • 社員食堂
  • 食事補助
  • スポーツイベント
  • レクリエーション企画
  • フィットネスクラブの割引サービス

まとめ

いかがだったでしょうか。健康経営に取り組むメリット、取り組み方、参考にしたい健康経営企業の取り組み事例、各施策への投資などについてご紹介しました。従業員の健康を管理することで、企業にとって、また社会にとってのリスクを軽減していくことにつながる意義のある取り組みです。明日から健康経営、はじめてみませんか。

参考:経済産業省「健康経営の推進について」

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