4月。新入社員を迎えた企業も多いのではないでしょうか。就活を終えて社会人としての一歩を踏み出した社員に会社側も期待をしていることと思います。ですが、キャリアに関する認識が、大きく変わりつつあります。新卒社員が3年以内に退職する、早期離職率は3割以上。転職へのハードルの低さや、転職に対する意識の変化も後押ししています。そこで社員が働きつづけたい会社、定着率をあげるために注目される「エンゲージメント」の高め方、そのために欠かせない社内表彰制度を導入する際のポイントについてご紹介します。
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転職への意識変革
「第二新卒」という言葉が定着しているほど、若手人材の流動性が高まっています。20代に限らず、働き方改革によって、副業・兼業を促進する動きや、転職は何かをあきらめるものではなく、新たな価値や人脈を手に入れるための手段、といった転職への意識変革が起きています。
内閣府が全国の16歳から29歳までの男女を対象に調査した「平成30年版子供・若者白書」のうち、20歳~24歳では、なんと半数の51%が3年未満で離職しているといいます。
- 初めてついた職に「現在も継続して勤務している」45.2%
- 「1年以上3年未満で離職した」16.0%
- 「3か月以上1年未満で離職した」18.1%
- 「1か月以上3か月未満で離職した」16.9%
また、厚生労働省が発表している「新規大卒就職者の事業所規模別就職後3年以内※の離職率の推移」によると、事業規模による離職率は、
- 5人未満 56.1%
- 5~29人 51.1%
- 30~99人 40.1%
- 100~499人 33.0%
- 500~999人 29.9%
- 1000人以上 26.5%
という結果もあります。
参考:厚生労働省「新規大卒就職者の事業所規模別就職後3年以内※の離職率の推移」
早期離職の理由とは?
では、せっかく入社した社員が会社を去っていく理由はどんなものでしょうか。
- 「仕事が自分に合わなかったため」43.4%
- 「人間関係がよくなかったため」23.7%
- 「労働時間、休日、休暇の条件がよくなかったため」 23.4%
- 「賃金がよくなかったため」20.7%
- 「ノルマや責任が重すぎたため」19.1% (複数選択可)
参考:内閣府「平成30年度版 子供・若者白書」内、「特集 就労等に関する若者の意識」
条件や待遇ではなく、仕事との相性、職場での人間関係など、入社する前に抱いていたイメージとのギャップが上位理由となっています。それではどういったことに留意すれば、よいのでしょうか。
職場の人間関係・休みやすさを重視する傾向あり
まずは、働く人の実態を知ることから。株式会社パーソル総合研究所が日本を含むアジア太平洋地域(APAC)14の国・地域における就業実態・成長意識の調査結果を発表した内容に興味深い結果がでています。
仕事を選ぶ際に、何を重要視するのか、について調査したところ、
1位=希望する年収が得られること、2位=職場の人間関係が良いこと、3位=休みやすいことという結果がでています。「年収」は他の国でも1位ないし上位に入っている要素ですが、「職場の人間関係」や「休みやすさ」が上位にランクインしているのは、日本のみで、独自の傾向といえそうです。
参考:パーソル総合研究所 「APAC就業実態・成長意識調査(2019年)」
表彰制度の効果
表彰制度を離職率低下のためにどう活用できるのでしょうか。表彰制度を導入することで得られる効果には次のようなものがあります。
- 社員のモチベーションをアップさせる
- エンゲージメントを向上させる
- 表面化しにくい定性的な成果も評価することで、満足度が向上する
表彰制度の目的は、自分の業務が「ちゃんと評価されている」と可視化することで、社員に自信をもって働いてもらうことです。売上や達成数字だけでなく、業務改善や効率化についても評価されるような仕組みにすることで、不公平感のない制度につなげていくことが重要です。同僚の働きや職場の業務全体に関心を広げるきっかけにつながります。ひとりひとりの社員が生き生きと仕事ができる環境を整えることで、社員の満足度向上につながり、その結果、優秀人材の流出を防ぐことができるのです。
承認されることで、自分の仕事が誰の役に立っていると実感できる
仕事への定着率が下がっている要因として、もうひとつ提唱されていることがあります。それは日本企業に「褒める文化」「表彰する文化」がないこと。
高度成長期の経済発展を支えた日本の企業文化において、やる気や意欲をはかる物差しといえば「労働量(時間)」でした。しかし、経済発展を遂げ、AI(人工知能)により仕事が代替される現代においては、仕事の評価も「量」から「質」へとシフトしていくべきです。
質の高い仕事をする上で、重要なのが、仕事への意欲やモチベーションの向上です。「自分がやっている仕事が誰の役に立っている仕事なのか」。新たな表彰制度を考えるうえで応用されるのが、アメリカの心理学者であるアブラハム・マズロー博士が提唱した「自己実現理論」です。
「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定し、人間の欲求を5段階に理論化しました。低い階層の欲求が満たされると、次の階層の欲求が出てくるという具合に段階的に進んでいきます。
褒める文化・表彰する文化は「自尊の欲求」を満たします。うまく制度として取り入れることで、社員を次の段階の「自己実現の欲求」レベルに押し上げるきっかけとして機能するのです。
エンゲージメントを向上させることで人材を流出させない
特に近年、従業員と会社の関係の強さを示す「エンゲージメント」という指標が注目されるようになっています。外資系コンサルティング会社の調査によると、称賛文化がある企業はそうでない企業と比べて、エンゲージメントが6割も高いという結果があります。Google社が取り入れいている称賛制度のひとつに「ピアボーナス」があります。
ピアボーナスとは、ピアを意味する単語「peer」(仲間・同僚)、とボーナス「bonus」(報酬)を組み合わせたもので、社員同士が賞賛を送りあうことができる仕組みです。
日々の業務の中で感じた感謝をボーナスとして送り、社内で自分の役割、存在感を感じられることで、社員間のエンゲージメントを向上させているのです。
では、会社としてエンゲージメントを高めるための表彰制度とはどんなものでしょうか。
実は働き手は転職を好んでいない!?
社内表彰制度は、人材を定着させられる鍵になると考えられる要因に、もうひとつ、変化を好まない日本人の特性があります。NHK放送文化研究所が行った国際調査によると、日本人の仕事への意識として以下のような結果がでています。
調査の結果から、仕事の満足度が高い国では、次のような傾向が示されています。
- 仕事を通じてスキルアップや面白さを感じられること
- 職場の人間関係が良好
- 今の職場で働くことに誇りを感じる
つまり、日本において仕事の満足度があがるような社内表彰制度を導入することで、進んで会社の発展のためにモチベーションをもって仕事をする組織に変えていける可能性があるのです。
参考:NHK放送文化研究所「仕事の満足度が低い日本人~ISSP国際比較調査「職業意識」から~」
表彰制度に関するルール
表彰制度は社内で設計、運用ができる自由度の高い仕組みです。会社の価値観や、業種により個性的な制度を行う会社も少なくありません。制度を実施するための細かいルールはありません。実施の際は、関連する事項を就業規則に記載しておきましょう。(労働基準法第89条)
表彰制度の事例紹介
表彰するのは、お手本的な社員ではなく、働く人を主役にしたものが新しい表彰スタイル。では、どんな表彰制度があるのか、事例をご紹介します。
〈永年勤続表彰制度〉
代表的な制度として挙げられるのか、「永年勤続表彰制度」です。勤続年数に応じて企業から表彰される制度で、「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」によると企業の49.5%が「永年勤続表彰制度」を福利厚生の一環として導入している」そうです。
5年・10年・20年という年数で表彰する例が多く、長く在籍していることが評価される、という企業姿勢を示すことができること、正社員、非正社員も同等に表彰することで、誰にでも資格がある、公平性が高い制度です。
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構,「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」
〈新人賞〉
新人賞は最も優秀な新入社員を表彰するものです。同期入社が対象となるので、公平性があり、入社後のモチベーション維持にも効果的です。
〈半期・年間MVP〉
半年、1年間に高い業績を残した個人・チーム表彰する賞です。会社の行事などの際に発表することで、華々しさの演出と、社内への周知がはかれます。
〈ピアボーナス制度〉
従業員同士が互いに報酬(ボーナス)を贈り合うことができる仕組みのことを指します。社員にボーナスやポイントを付与し、それを感謝や賞賛として、送ったり投票できる。他部署とのコミュニケーションが図れる、会社の帰属意識や愛着心が深まるなどの効果が期待できます。
褒賞として贈るものはどんなものがよいか
感謝を贈りあう視点で、自由度の高さを活かした制度づくりを行うことが、企業の文化の浸透、ひいてはエンゲージメントの向上につながります。褒賞には、「社員がもらってうれしいもの」を贈ることも心がけましょう。
〈褒賞の例〉
- 金一封
- 特別休暇
- 旅行券・商品券・食事券
- トロフィーなど置物
- 好きな商品やサービスと交換できるポイントを付与 など
表彰制度導入の際の留意点
どんな制度であっても、大事なのは、目的に沿ったものかどうか。社員のやる気につながるものでなければ意味が薄れてしまいます。
・社員のモチベーション向上につながる「もらってうれしい」ものかどうか
形骸化しないよう、制度についての見直し・褒賞内容についてもアンケートを実施するなど改善を行いましょう。
・公平性があるかどうか(正社員だけでなく、非正社員も対象にする)
会社によっては、非正社員が多いケースもあります。会社を支えるオールメンバーが対象になっていることが重要です。
・個人だけでなく、「チームで取り組む仕事」への評価がなされているか
個人で完結する仕事はめったにありません。営業成績を評価するとしても営業事務、サポートなどの役割もその成果を担っています。特定の個人が評価されることで、周囲に不満が生まれないように留意しましょう。
まとめ
社内表彰、というと古典的なイメージがありますが、働き方、仕事への意識の変化に伴い、会社に求めるものも変わりつつあることがわかります。働き手を知ることで、社員のモチベーション向上とともに、企業文化を醸成できる表彰制度を運用できるのではないでしょうか。