レジ袋の有料化、衣料品のリサイクル、バイオマス燃料の開発など、環境に配慮した取り組みが拡大しています。SDGs(エスディージーズ)を見聞きする機会も増えていますが、持続可能な開発目標として掲げられた世界共通の目標に企業はどう取り組んでいるのでしょうか。調査結果をもとに、企業のSDGsへの取り組みの実態と見えてきた課題について考えます。
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SDGsとは
SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の略称で、2030年までに持続可能な発展を目指して設定した17個の国際目標です。SDGsにはピンとこない方も、Sustainable(サステナブル)、サステナビリティはご存じではないでしょうか。サステナブルとは「持続する」、サステナビリティは、「持続可能な」という意味があります。地球環境を守り、限られた資源を有効に活用し、未来の世代に、美しく豊かな地球をつなげていこうとする取り組みです。
サステナブルとSDGsは違う?
SDGsのSは、Sustainableと書きました。サステナブルとSDGs、どちらも目指すところは、「人・社会・環境の持続的な発展」である点で同じです。SDGsは2015年から2030年までに達成する時限的な目標という位置づけではありますが、地球温暖化を引き起こしているCO2排出量の削減や、貧困問題など、まったなしの状況に直面していることが、SDGs提唱の背景にあります。世界が一丸となって推進することで、サステナブルな社会を実現していくことが狙いです。
SDGsが掲げる17の目標
日本のSDGs達成度は17位
SDGsは、世界166か国を対象にした国際目標です。2015年の開始から、毎年、各国の達成状況についてのレポートと達成順位ランキングが発表されています。それによると、最新の2020年ランキングでは、日本は17位となっています。17ある目標のそれぞれについて達成度と進捗度が示されており、興味深いです。
達成度と進捗度が低く取り組みの強化が必要な目標として
- 目標5 (ジェンダー平等)
- 目標10 (不平等をなくす)
- 目標13 (気候変動対策)
- 目標14 (海の豊かさ)
が挙げられています。
2020年からスタートした、「行動の10年」
これらの目標達成には、計画と実行を確実に行っていく必要があります。2020年からは、2030年まで10年を切ったことから、「行動の10年」と位置づけられています。全体の達成度と進捗度を確認し、進捗度が低い目標を把握していくことが必要といえます。
詳しいレポートを知りたい方は、こちら
終末時計は「残り100秒」
人類の滅亡を午前0時として、残りの時間を示す、「終末時計」(Doomsday Clock)。アメリカの原子力科学者会報が定期的に発表しているものです。発表当時は、核戦争の脅威によって地球が滅亡すると考えられており、世界情勢によって時計の針は進んだり、戻ったりしていました。2007年から地球温暖化も脅威として換算され、最新の2021年1月27日に発表された残り時間は、「残り100秒」。世界的な新型コロナウイルス感染症など脅威はさらに増え、過去最短時間となっています。行動を起こすのに迷っている時間は多くはないのです。
「SDGs」の国内認知度は約50%
それでは、どの程度、SDGsは認知されているのでしょうか。楽天インサイト株式会社が全国の20~69歳の男女1,000人を対象に行ったインターネット調査、「SDGsに関する調査」(2020年12月実施)によると、「SDGs」について「よく知っている」と「聞いたことがある」と回答した人の割合は50.7%という結果でした。また、キーワードとして認知した時期は、「半年以内」(22.9%)、「1年以内」(27.8%)で約半数を超えており、比較的新しいことがわかります。
牛乳パックや食品トレーのリサイクル、マイバッグ持参などが浸透し生活行動の変化が起きている一方で「SDGs」という言葉の認知は遅れをとっているのが実情のようです。では、企業のサステナビリティへの取り組みは、どんなものなのでしょうか。
参考:https://insight.rakuten.co.jp/report/20210128/
SDGsに取り組んでいる企業は6割超
一般社団法人日本能率協会が国内企業5000社を対象に実施した、調査によると、回答した532社中約9割の企業経営者が「知っている」70.5%、「ある程度、知っている」が17.9%となり、合わせて約9割と、認知の高さが伺われます。
SDGsに関わる活動の実施有無については、全体では、6割がなんらかの行動を実施していると回答しているものの、企業規模別にみると実施状況に差があることがわかっており、意識しているものの、活動に結びつくには課題もありそうです。
関心は高いが、活動にまでは結びついていないというのが現状です。
従業員数3,000人以上の大企業 | 88.5% |
〃 300人~3,000人の中堅企業 | 59.4% |
〃 300人未満の中小企業 | 39.3% |
企業に寄せられる期待は大きい
SDGsが採択される以前にも、よりよい世界の実現に向けた国際目標は存在していました。2000年9月に採択されたミレニアム開発目標(MDGs)です。MDGsでは、極度の貧困と飢餓の撲滅など、2015年までに達成すべき8つの目標が掲げられ、SDGsはその期限を受け、新たな目標として設定されたものです。
MDGsでは、取り組みによって多くの命が守られ、一定の成果をあげました。同時に、世界には経済、地域、人種、性別において、多くの格差があること、「取り残されてしまった人々」の存在が明らかになったのです。SDGsの「誰一人取り残さない」という宣言に繋がっているのです。
そしてSDGsにおいては、各国政府や関連機関だけが行うだけではなく、政府を中心に企業・自治体・各種団体・個人が主体的に取り組むべき課題が設定されています。個人の行動を変えていくことはもちろん大切ですが、経済活動への影響が大きな企業には、事業を通じてSDGsに取り組むことに大きな期待が寄せられているのです。
CSRとSDGsは別のもの?
企業の多くは、CSR(企業の社会的責任)として活動を行ってきた経緯があります。CSRと聞くと、企業が余剰の力で、慈善活動や寄付活動を行うことがイメージされますが、企業が社会の期待に応える能力・自社の事業でこそ課題解決できる独自の取り組みであり、強みを活かした活動を推進することは、SDGsと乖離したものではないと言えます。
企業がSDGsに取り組むメリット
企業にとってSDGsに取り組むメリットとはなんでしょうか。企業の商品を選ぶ際に、消費者のマインドが大きく変化しています。食品や日用品、アパレルにおいて、フェアトレード商品や、環境に負荷を与えない商品であることが選択理由になっています。
SDGsに取り組むことで、「環境のことを考えている企業(ブランド)」と認知され、企業の価値が高まるのです。新商品やサービスの開発により、新たなビジネスチャンスにつながります。企業イメージが向上することで、優秀な人材を確保しやすくなったり、ステークホルダーとの信頼関係の向上により、企業価値の向上などプラスの効果が得られるのです。
SDGsへの取り組みが、企業の姿勢をはかるものさしになるのです。
SDGsに取り組む際の留意点
SDGsに取り組むことで、ブランディングや会社の成長につながることがわかりました。では、実際にどんなアクションプランを作成すればよいのでしょうか?「取り組みについての具体的な目標・KPIの設定」に課題を感じている企業は多くあります。そこで取り組む際に躓きやすい点、注意しておきたい点についてご紹介します。
留置点①SDGsを表層的に捉えていないか
自社の事業内容とSDGsの目標番号を紐づけることで満足していませんか?関連付けを行うことは簡単ですが、表層的な紐付けでは、SDGsを達成することにも、課題を解決することにもつながりません。SDGsとは何か? について本を読むなどして理解を深めましょう。
〈おすすめ書籍〉
『SDGs思考 2030年のその先へ 17の目標を超えて目指す世界』(田瀬和夫/インプレス)
留意点②専門性が不足していないか
SDGsは、グローバルな目標であるゆえに、多くの専門用語が存在します。導入にあたっては、ガイドラインを読むことが前提となります。SDGs推進を任された社員は、まず「SDG Compass」に沿って、アクションプランに落とし込むことが求められます。
読み解くには難解な部分もあるので、そういった場合は、専門家がSDG Compassを解説するセミナーに参加するのも手です。
留意点③経営層の理解が得られない
現場がやる気になってアクションプランを策定しても、肝心の経営層がSDGsを理解していない、というケースがあります。新しい商品やサービスとSDGsを結びつけること、推進するための社内体制の構築は欠かせませんが、決裁に際して、経営層の理解は欠かせません。期限の迫った目標を実現するためには、社内の人間関係といったバイアスのない、外部の専門家に説明を委ねるなど、あらゆる手段を検討しましょう。
企業が行っているSDGsへの取り組み
具体的にどんな取り組みを行っているかを知るには、外務省のサイト「JAPAN SDGs Action Platform」で各企業の取組事例を参照できます。また、ブランド総合研究所の実施している、「企業版SDGs調査2020」では、SDGsへの取り組みの評価が高い日本企業がランキングで公開されていますので、企業のサイトでどの目標にどう取り組んでいるのかを確認できます。
事例紹介 イオンの取り組み
国内外に大型商業施設を展開するイオンモールは、「ハートフル・サステナブル」をスローガンにSDGsに取り組んでいます。
〈主な取り組み〉
- 防災拠点としての役割を果たす
防災拠点としての活用を目指し、定期的に災害発生訓練を行うほか、電力や飲料水を確保したり、地方行政と防災活動への協力などに関する協定書を締結するなど、復興拠点としての役割を担うことを目指す。
- イオンモールウォーキング
健康づくりの機会提供としてモール内にウォーキングコースを設定、開放。
- 次世代スマートイオン
2050年の「脱炭素社会」の実現を目指して国内外158モールにEV(電気自動車)充電器2,332基を設置。88モールに太陽光発電システムを設置している。
- 文化・芸術体験
日々のくらしを豊かにするため、(公財)日本オペラ振興会との「オペラdeイオンモール」をはじめとする文化イベントを主催。
- ショッピングモビリティ
イオンモール幕張新都心をモデルにショッピングモビリティの導入を開始。
- 海外での街づくり
アジアへの出店を通じ、日本ブランドとしての新たな価値観の提供を行う。多様性を育み、街を豊かにする活動。
循環型ショッピングプラットフォーム「LOOP(ループ)」との取り組みで減プラ実現へ!
ゼロ・ウェイストホーム(ごみを出さない暮らし)への取り組みとして、2021年5月19日にイオン、エステー、アース製薬、P&Gなど6メーカーが参加する循環型ショッピングプラットフォーム「LOOP(ループ)」の商品販売が発表されました。
ループとは、グローバルに展開するソーシャルエンタープライズである米テラサイクルが開発し、従来、使い捨てされていた洗剤やシャンプーなどの日用消耗品や食品などの容器や商品パッケージを、ステンレスやガラスなど耐久性の高いものに変え、繰り返し利用を可能にすることで使い捨てプラスチックを削減する新たな商品提供システムです。
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002694.000007505.html
こうした大手企業の活動により、脱プラスチックの流れが一気に加速することが期待されます。
まとめ
環境破壊、特に近年メディアでよく取り上げられる海洋プラスチックごみの問題など、地球規模の課題は、国単位では解決が難しいように見えますが、企業が利益を、消費者が安価で便利なものを追及してきたことが根本にあります。シェアしていくほかない、代替のきかない地球を未来の世代につないでいくために多くの企業が、SDGsへの取り組みを行っています。そうした取り組みに対して、消費者も敏感に反応します。SDGsへの意識を高め、持続可能で豊かな暮らしを実現するために、自社でできることは何か。「行動の10年」はもう始まっています。SDGsへの理解を深めて、アクションプランを推進していきましょう。