働く人を取り巻く環境が目まぐるしく変化しています。そのひとつが、労働環境の変化。働き方改革の推進という下地と、新型コロナウィルス感染症の拡大による緊急事態宣言の発令により、通勤せず在宅で業務を行うテレワーク(リモートワーク)が急速に拡大しました。テレワークが当たり前の働き方になったニューノーマル時代において、福利厚生の在り方もアップデートが迫られています。テレワークの実態と社内制度導入のポイントについてご紹介します。
Contents
テレワークという働き方が定着
テレワーク拡大の背景
・働き方改革の推進により、多様な働き方が可能になった
2019年4月から施行が始まり、2023年までにすべての施行を目指している、働き方改革関連法。有名なところでは、副業の解禁や、年次有給休暇の取得が義務化があります。少子高齢化に伴い、育児や介護を両立する人が増えるなか、多様化する現代のライフスタイルを支えることを目的とした法整備が進められています。
・新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の影響が流れを加速
もうひとつは、新型コロナウイルスによる、緊急事態宣言がもたらした通勤の削減。これまでテレワークに積極的ではなかった、中小企業や地方の企業、自治体においてもテレワークが導入され、急速に拡大しています。
経団連が2021年1月に行った、緊急事態宣言下におけるテレワーク等の実施状況調査によると、回答のあった505社のうち、「在宅勤務(テレワーク)が可能な業務で原則実施しているかどうか」に「実施している」と回答した企業は90%と高水準でした。実施した企業のうち、「7割以上の出勤者を削減した」と回答した企業は185社(37%)に上りました。
大手企業の動向として、ヤフーがリモートワークの回数制限を廃止、Twitterがコロナ終息後も、一部社員に対して恒久的に在宅勤務を認めると発表しています。それに続くように、Googleも2021年7月までオフィス再開を見送りました。リサーチ会社が、アメリカのCFOを対象に行った調査で、74%もの会社が、「コロナ終息後もテレワークを何かしら維持する意向である」と回答しています。テレワークが新たなワークスタイルとして定着することは確実です。
参考:緊急事態宣言下におけるテレワーク等の実施状況調査(経団連)
会社員の5割が転職先に「テレワーク制度があることを重視」
少子化や働き方改革が進む中、企業にとって人材の確保は最重要課題です。給与・条件面だけでなく、会社を選択する際に、「働き方の選択肢」が基準の1つになりつつあります。それを裏付けているのが、転職サービス「doda」が実施した調査結果。20~30代のdoda会員1,271名を対象に、インターネットで行われた調査によると、
- 約5割(48.4%)が転職を検討する際の条件として、「テレワークの実施」が重要と回答
- テレワーク求人は、それ以外の求人の約1.6倍応募があった
- テレワークで働きたい日数は、週3日が最も多かった(29.5%)
という結果がでています。テレワーク制度をもつかどうかが、企業の採用活動にも影響を及ぼしています。
参考:「リモートワーク・テレワーク企業への転職に関する意識調査」(パーソルキャリア)
働き方の主流はハイブリッドワーク
そうしたテレワークの浸透に伴い、勤務制度を見直す動きがあります。主な勤務制度としては、3つ。
- 通勤メイン
- フルリモート
- ハイブリッドワーク
が挙げられます。
通勤メインは、週4~5日オフィスへの通勤を原則とするもの。フルリモートは、出社がマストではない在宅勤務中心の働き方、ハイブリッドワークは、両方を組み合わせたもの。
パーソルプロセス&テクノロジー株式会社が2020年12月10日に発表した、「テレワーク中の評価に関する意識・実態調査」では、テレワークの頻度は、「週1日程度」と「週2~3日程度」が併せて6割以上と、ハイブリッドワークが主流となっていることがうかがえます。
働き方は変わっても、人事評価制度は変わっていない
同じ調査で「テレワーク実施に伴い、会社の人事評価の仕組みが変わったか」という質問には、「変わっていない」という回答が6割。「変わった」は1割に満たない実態が明らかに。働き方が変わったものの、社内の評価制度は変わっていない、または追いついていないのです。それを反映するかのように、テレワーク経験者の約8割が、テレワークにおいて不安を感じるという回答もあります。
参考:リモートワークで生まれた余裕と不安~リモートワーク実態フォロー調査レポート2~(カオナビHRテクノロジー総研)
人事評価・福利厚生が従業員満足度と人材確保につながる
人材評価や福利厚生を充実することで、得られる効果として、
- 企業のブランディング
- 優秀な人材の確保(リテンション)
- 従業員のモチベーションUP
があります。
人事評価や福利厚生は、会社がどんなことを大事にしているのか、企業のブランディングにもつながる制度であり、優秀な人材を確保するための手段として位置づけられてきました。
これまでの福利厚生は、海外IT企業での無料のランチが食べられる社員食堂や、おしゃれで開放的なオフィスにイメージされるような、通勤を前提とするものが主流でした。しかし、コロナ禍において、そうした常識が覆りました。また、社員の側としても、テレワークを続けたい、と考える人が増加しています。アメリカの調査では、74%が「テレワーク(リモート)で働けるオプションがあると会社を辞める可能性が低くなる」と回答。在宅・通勤の社員あわせて80%の人が、「テレワークできる会社は、より友人に紹介したくなる。よりストレスが軽減し、幸せを感じる」と回答しています。(OWLLabが2019年発表)
では、テレワークが新しい働き方として定着したニューノーマル時代における福利厚生として、どんなことに注意をしたらよいのでしょうか。また、先進的な企業が取り入れている社内制度にはどんなものがあるのでしょうか。
テレワークを成功させるためのポイントと制度
ポイント①社内コミュニケーションの活性化
テレワークは、物理的に離れていることもあり、いかにコミュニケーションを強化していくかが重要です。SlackやChatworkなどのコミュニケーションツールが導入された会社も多いことでしょう。ツールは、必要な伝達事項を伝えるのには適していますが、相談・雑談をしづらいため、一体感は失われがちです。
- 社長や幹部からのビデオメッセージや情報発信
- 上司から部下へのコンタクト、面談の場を設ける
など、コミュニケーションやオープンな情報公開を行うことが重要です。
〈福利厚生の例〉
・オンライン飲み会の飲食代を経費で支給
ポイント②リモートワーク環境の整備
在宅勤務してみて感じることは、オフィスが働く場としていかに整えられた環境であるか、ということではないでしょうか。オフィスでは、打ち合わせやランチなど、1日のタイムスケジュールが全体で共有されています。また、デスクやチェア、モニター、プリンターや打ち合わせスペースなど業務に必要なものがそろっています。自宅では、専用の執務スペースがとれず、リビングが仕事場になったり、オフィスチェアでないので、腰痛に悩まされる、通信環境が不安定、など業務の効率化を妨げる要素になりえます。
〈福利厚生の例〉
- 在宅勤務準備金の支給
- オフィス備品の貸出
- テレワーク手当
事例)
企業 | テレワーク手当 |
ヌーラボ | 3万円の準備金、1万円のテレワーク手当 |
ヤフー | 最大月7,000円の補助(どこでもオフィス手当4,000円+通信費補助3,000円) |
メルカリ | 6万円(半年分) |
GMOインターネットグループ | 光熱費・通信費を補助する手当を毎月一定額支給。希望者には、リモートワーク補助金やオフィスのデスク・チェアを無料貸与 |
ピクスタ | 1万円のテレワーク手当 |
富士通 | 月5,000円のテレワーク手当 |
日立製作所 | 月3,000円のテレワーク手当 |
ポイント③勤務形態・スケジュールの自由度
福利厚生といえば、働く人すべてが利用できる公平性が重視されますが、現実には、働く人の状況はひとりひとり異なります。例えば、子育て中の人と、親の介護をしている人とでは、ありがたいと感じる働き方は異なります。個々人が、効率的に働けるための勤務形態、スケジュールの自由度を企業が整えることが重要です。
〈福利厚生の例〉
- ベビーシッターの割引制度
- 勤務形態による福利厚生の整備(通勤メインなら、通勤手当を支給。テレワークには、在宅手当を支給など)
事例)
アマゾン、ネットフリックス
ベビーシッターを手配できるサービス「Care.com」を導入。共働きの家庭や、ひとりで子どもの世話を見なければならないとき、ベビーシッターに依頼できると仕事に専念することができる。日本でも企業が導入している福利厚生サービスによって、ベビーシッター利用料金が割り引きになるものがあります。
サイボウズ
独自の「働き方宣言制度」を導入。育児、介護に限らず、通学や副(複)業など個人の事情に応じて、勤務時間や場所を決めることができる。ワークスタイルに関する制度で離職率が28%→3~5%に改善。
https://cybozu.co.jp/company/work-style/
メルカリ
「メルカリ・ニューノーマル・ワークスタイル」をトライアル運用中。個人・チームの裁量に合わせてリモート/出社の有無、および出社時間・頻度など自由に選択可能にするなど、組織の多様性に合わせた新たな働き方ができる。
https://about.mercari.com/press/news/articles/20200702_mercari_newnormal_workstyle/
note
「フレキシブル出社制度」。社員一人ひとりが、個人の業務内容や置かれた環境に応じて勤務スタイルを選択できる制度。在宅勤務手当として正社員・契約社員に月1万円、アルバイトにも月5,000円を支給。出社時の交通費は実費支給される。
https://note.jp/n/nf0985293c654
ポイント④メンタルヘルスへの配慮
テレワークを支持する社員は多いですが、働き方が変わったことで、ストレスを感じている人も増えているといいます。テレワークでは、「自己管理」が重要です。管理ができずついつい長時間労働してしまった、という経験はありませんか。また、コミュニケーション機会が少なくなることで、悩む時間が増えたり、テキストをベースにしたコミュニケーションに慣れない、というケースもあるでしょう。また、会話もなくパソコンに向かっていることで感じる孤独感を募らせることもストレスの要因となっています。
〈福利厚生の例〉
- メンタルヘルスサポートの提供
- 食事補助
事例)
社員に向けて、マインドフルネスアプリ「Happify」のコーポレートサブスクリプションを提供。
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.happify.happifyinc&hl=ja&gl=US
ジャパネットたかた
社員食堂を導入していない17拠点に対し街の飲食店を社員食堂代わりに使えるサービス「びずめし」を導入。ランチのために外出することで社員同士の交流と仕事にメリハリが生まれる。
https://www.jiji.com/jc/article?k=000000110.000016651&g=prt
まとめ ニューノーマル時代に求められる福利厚生とは
働き方の多様性と、福利厚生についてご紹介してきました。福利厚生とは、人材獲得の際に欠かせない要素であるとともに、根本的には、「働く人がもっている力を発揮できるためのもの」です。実際の導入には、目的を見失うことなく、自社のワークスタイルに合ったもの、社員の希望に沿ったものを取り入れていくことが重要です。時代にあった福利厚生は、人事総務担当者の新たなミッションかもしれません。