働き方改革が「うまくいかない」と感じていませんか。長時間労働の是正だけでは、生産性低下や従業員の不公平感といったデメリットが生じがちです。その原因は、業務プロセスや評価制度といった本質的な改革が伴っていないことにあります。本記事では、企業と従業員それぞれの視点でデメリットを具体的に解説し、課題を乗り越えるための対策や成功事例を紹介します。
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働き方改革の目的と現状のギャップ

働き方改革は、多くの企業で推進されている重要な取り組みですが、その一方で「デメリット」を感じる声も少なくありません。なぜ、本来は労働環境を改善するための改革が、企業や従業員にとっての課題を生み出してしまうのでしょうか。この章では、働き方改革が目指す本来の目的と、現場で起きている「理想と現実のギャップ」について詳しく解説します。
そもそも働き方改革とは?3つの柱を解説
働き方改革とは、厚生労働省が主導する「一億総活躍社会」の実現に向けた取り組みです。その背景には、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少という、日本が抱える深刻な課題があります。限られた人材で生産性を維持・向上させ、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を選択できる社会を目指すことが、この改革の大きな目的です。
具体的には、「長時間労働の是正」「正規・非正規雇用の不合理な待遇差の解消」「多様で柔軟な働き方の実現」という3つの柱が掲げられています。単に残業を減らすだけでなく、労働者一人ひとりが、より良い将来の展望を持てるようにすることが、働き方改革の本質と言えるでしょう。
理想と現実のギャップ:なぜデメリットが生まれるのか?
働き方改革が掲げる理想は素晴らしいものですが、多くの企業でその実現は容易ではありません。ここに、デメリットが生まれる原因となる「理想と現実のギャップ」が存在します。例えば、「長時間労働の是正」という理想に対し、現場では業務量や業務プロセスが変わらないまま「残業禁止」の号令だけがかかり、サービス残業や持ち帰り仕事が増加するという現実があります。
また、「生産性向上」を目指してITツールを導入しても、使いこなせずにかえって業務が非効率になったり、管理職の負担が増大したりするケースも少なくありません。このように、改革の目的が現場の実態と乖離したまま進められることで、企業と従業員の双方にとって意図せぬデメリットが生じてしまうのです。
企業側が直面する働き方改革のデメリット

働き方改革は、従業員のワークライフバランス向上や生産性向上といった多くのメリットをもたらす一方で、企業側にとっては予期せぬデメリットや課題を生じさせる側面もあります。長時間労働の是正や多様な働き方の導入といった変化は、従来の経営手法や組織体制に大きな見直しを迫ります。ここでは、多くの企業が直面しやすい具体的なデメリットを4つの観点から詳しく解説します。
生産性の低下と業務品質への影響
働き方改革の柱である「長時間労働の是正」は、単純な労働時間の短縮だけでは、かえって生産性を低下させるリスクをはらんでいます。業務プロセスや業務量の見直しが伴わないまま残業だけを禁止すると、従業員は限られた時間内に仕事を終わらせることに追われ、本来時間をかけるべき情報共有や丁寧な確認作業、人材育成といった付加価値の高い業務が後回しになりがちです。
その結果、短期的には業務が回っているように見えても、中長期的にはミスや手戻りの増加、顧客への対応品質の低下を招き、最終的に企業の競争力を損なうことになりかねません。特に、創造性や緻密な分析が求められる業務において、時間的プレッシャーは品質の劣化に直結しやすい深刻な問題です。
人件費や管理コストの増加
働き方改革の推進は、企業にとって新たなコスト負担増につながるケースが少なくありません。例えば、労働時間を削減したことで生じる労働力不足を補うために、新たな人材を採用すれば採用コストや社会保険料などの人件費が増加します。また、「同一労働同一賃金」の原則に基づき、非正規雇用労働者の待遇を改善するための費用も必要です。
さらに、客観的で正確な労働時間を把握するための勤怠管理システムの導入・刷新や、テレワークを支援するためのITインフラ(VPN、Web会議システム、セキュリティソフトなど)の整備にも多額の初期投資と継続的な運用コストがかかります。これらのコスト増が経営を圧迫し、本来投資すべき事業開発や設備投資の足かせとなる可能性も指摘されています。
従業員間の不公平感の増大
多様な働き方を認める制度は、従業員間に新たな不公平感を生む火種となることがあります。代表的な例が、テレワークやフレックスタイム制度を利用できる職種と、製造現場や店舗での接客など、物理的に出社が必須となる職種との間に生じる格差です。また、育児や介護を理由に時短勤務を利用する従業員がいる一方で、その分の業務負担が「しわ寄せ」として他の従業員にのしかかり、不満が蓄積するケースも頻発しています。
さらに、評価制度が労働時間から成果主義へと移行する過程で、成果が数値化しにくいバックオフィス部門の従業員が正当に評価されないのではないかという不安や、これまで残業によって成果を上げてきた従業員の評価が下がるという不満も生まれやすく、従業員のモチベーション低下につながる恐れがあります。
マネジメントの複雑化と管理職の負担増
働き方改革は、特に管理職(マネージャー)に大きな負担を強いることになります。テレワークやフレックスタイム制など、部下の働く場所や時間が多様化することで、勤怠管理や業務の進捗状況の把握が格段に難しくなり、マネジメントコストが増大します。
対面でのコミュニケーション機会が減ることで、部下の些細な変化やメンタルヘルスの不調に気づきにくくなるという課題もあります。さらに深刻なのが、部下の残業を抑制した結果、終わらなかった業務のしわ寄せが管理職に集中する問題です。
自身のプレイヤーとしての業務をこなしながら、複雑化したマネジメント業務と部下から回ってきた業務を処理しなければならず、結果的に管理職が長時間労働に陥るという本末転倒な事態も起きています。
従業員側が感じる働き方改革のデメリット

働き方改革は、長時間労働の是正や多様な働き方の実現を目指すものであり、従業員にとって多くの恩恵をもたらします。しかし、その導入プロセスや運用方法によっては、意図せず従業員側に新たな負担や課題を生じさせてしまうケースも少なくありません。ここでは、従業員が実際に直面しやすいデメリットを3つの側面に分けて詳しく解説します。
サービス残業や持ち帰り仕事の増加
働き方改革の柱である「時間外労働の上限規制」は、従業員の健康を守る上で非常に重要です。しかし、企業が業務量や業務プロセスを見直さないまま、単に「残業禁止」の号令をかけるだけでは、問題の本質的な解決には至りません。結果として、定時までに終わらなかった仕事を、従業員が自宅に持ち帰ったり、タイムカードを押した後にこっそり片付けたりする「隠れ残業」が横行する可能性があります。これは賃金が支払われない「サービス残業」に他ならず、従業員の労働時間を正しく把握できなくなるだけでなく、むしろ心身の負担を増大させる危険性をはらんでいます。結局、総労働時間は変わらない、あるいは増えているにもかかわらず、企業側からは「残業が減った」と見なされ、従業員の不満やエンゲージメントの低下につながります。
残業代カットによる収入の減少
これまで恒常的な残業が存在し、残業代が給与の重要な一部を占めていた従業員にとって、働き方改革による残業時間の削減は、生活に直結する「手取り収入の減少」という深刻なデメリットをもたらします。特に、基本給が低めに設定されており、残業代で生計を立てていた若手・中堅社員にとっては大きな打撃となります。企業が残業削減に見合った基本給の引き上げや新たな手当の支給といった代替措置を講じなければ、従業員のモチベーションは著しく低下するでしょう。収入減を補うために副業を始めざるを得ないケースも増えていますが、本業との両立による過労や、情報漏洩のリスク管理など、新たな課題も生まれています。企業の生産性向上と従業員の生活安定を両立させる給与体系の見直しが不可欠です。
コミュニケーション不足とスキルの停滞
テレワークやリモートワーク、フレックスタイム制といった柔軟な働き方の導入は、通勤時間の削減やワークライフバランスの向上に寄与します。その一方で、従業員同士がオフィスで顔を合わせる機会が減少し、偶発的な会話や相談が生まれにくくなるというデメリットも指摘されています。こうした何気ない雑談の中から生まれるアイデアや、困ったときにすぐに相談できる安心感は、チームの一体感や生産性を支える重要な要素です。
また、特に若手社員にとっては、先輩社員の仕事ぶりを間近で見て学ぶOJT(On-the-Job Training)の機会が失われがちになります。これにより、業務に必要な暗黙知の継承が難しくなり、個人のスキルアップやキャリア形成が停滞してしまうという懸念も高まっています。組織としての成長を維持するためには、意識的なコミュニケーション機会の創出が求められます。
働き方改革のデメリットを乗り越えるための具体的な対策

働き方改革がもたらすデメリットは、決して無視できるものではありません。しかし、これらの課題は適切な対策を講じることで、むしろ企業成長の機会へと転換させることが可能です。ここでは、生産性の低下や従業員の不満といったデメリットを克服し、働き方改革を成功に導くための具体的な4つの対策を詳しく解説します。
業務プロセスの見直しとITツールの活用
生産性の低下や長時間労働の是正には、まず既存の業務プロセスを根本から見直すことが不可欠です。「誰が」「何を」「どのように」行っているかを可視化し、無駄な作業や重複しているタスクを徹底的に洗い出しましょう。その上で、RPA(Robotic Process Automation)を導入して定型的なデータ入力や集計作業を自動化したり、SaaS型のプロジェクト管理ツール(AsanaやTrelloなど)を活用してタスクの進捗状況をチーム全体で共有したりすることで、業務効率は飛躍的に向上します。
また、ビジネスチャットツール(SlackやMicrosoft Teams)やWeb会議システムを導入すれば、場所にとらわれない迅速な情報共有が実現し、コミュニケーションコストの削減にも繋がります。これらのITツールは、単なる導入で終わらせず、活用方法を社内で標準化し、定着させることが成功の鍵となります。
成果を正当に評価する人事制度の構築
「残業した人が評価される」という旧来の文化から脱却し、労働時間の長さではなく、創出した成果や貢献度を正当に評価する人事制度への刷新が急務です。具体的には、個々の職務内容と責任範囲を明確にする「ジョブ型雇用」の導入や、企業全体の目標と個人の目標を連動させる「OKR(目標と主要な成果)」などの目標管理制度の活用が有効です。
評価基準を明確にし、評価プロセスにおける透明性を確保することで、従業員は自身の働きがどのように評価・処遇に結びつくのかを理解でき、不公平感を払拭できます。これにより、従業員は限られた時間の中で最大限のパフォーマンスを発揮しようと努めるため、結果として組織全体の生産性向上に繋がります。残業代の減少を補うインセンティブとして、成果に応じた賞与制度を充実させることも、従業員のモチベーション維持に効果的です。
多様な働き方を支援する勤怠管理と職場環境
従業員一人ひとりの事情に合わせた多様な働き方を実現するためには、それを支える勤怠管理システムと柔軟な職場環境の整備が欠かせません。テレワークやフレックスタイム制、時短勤務といった制度を導入する際には、PCのログオン・ログオフ時間と連動する勤怠管理システムを活用し、客観的で正確な労働時間を把握することが重要です。
これにより、隠れたサービス残業を防止し、労働時間管理の複雑化という管理職の負担を軽減します。また、時間単位で取得できる有給休暇制度を設けることで、従業員は育児や介護、通院といった短時間の私用にも柔軟に対応できるようになり、ワークライフバランスの向上を実感できます。企業側は、従業員がどの働き方を選択しても不利益を被ることなく、安心して働ける環境を整える責務があります。
コミュニケーションを活性化させる仕組み作り
テレワークの普及などにより働き方が多様化すると、従業員間のコミュニケーション不足が課題となりがちです。この問題を解決するためには、意図的にコミュニケーションの機会を創出する仕組み作りが必要です。例えば、上司と部下が1対1で定期的に対話する「1on1ミーティング」は、業務の進捗確認だけでなく、キャリアの悩みやメンタルヘルスのケアにも繋がり、信頼関係の構築に役立ちます。
また、社内Wikiやナレッジ共有ツール(NotionやConfluenceなど)を整備し、業務ノウハウや成功事例を組織の資産として蓄積・共有する文化を醸成することも重要です。これにより、業務の属人化を防ぎ、組織全体のスキルアップを促進できます。雑談専用のチャットチャンネルを設けたり、バーチャルオフィスツールを導入したりして、偶発的な会話が生まれる「場」を作ることも、チームの一体感を高める上で効果的です。
【事例】デメリットを克服した企業の取り組み

働き方改革は多くの課題を伴いますが、工夫と戦略によってデメリットを克服し、大きな成果を上げている企業も少なくありません。ここでは、具体的な課題に直面しながらも、それを乗り越えた国内企業の先進的な取り組みを3つの事例としてご紹介します。自社の課題解決のヒントとして、ぜひ参考にしてください。
SCSK株式会社:残業削減と社員への還元を両立したインセンティブ設計
ITサービス業界で長時間労働が常態化する中、SCSK株式会社は「スマートワーク・チャレンジ」という独自の取り組みで改革を成功させました。当初の課題は、単に残業を禁止するだけでは社員の収入が減少し、モチベーション低下やサービス残業の温床になりかねないという点でした。そこで同社が導入したのが、削減した残業代の原資を「スマートワーク手当」として全社員に還元する仕組みです。
これにより、社員は収入を維持しながら生産性向上に努めるインセンティブが生まれました。結果として、月間の平均残業時間は大幅に減少し、有給休暇の取得率も向上。社員のワークライフバランスが改善されただけでなく、企業の採用競争力強化にも繋がり、「人件費の増加」や「従業員の収入減少」という典型的なデメリットを見事に克服した好事例となっています。
サイボウズ株式会社:ツール活用で多様な働き方とコミュニケーションを両立
「100人100通りの働き方」を掲げるサイボウズ株式会社は、かつて高い離職率に悩まされていました。多様な働き方を認めると、従業員間のコミュニケーションが希薄になり、チームの一体感が失われるというデメリットが懸念されました。この課題に対し、同社は自社開発のグループウェアを徹底的に活用。業務に関するやり取りを原則としてオープンな場で行い、誰がいつどこで働いていても必要な情報にアクセスできる環境を構築しました。
これにより、リモートワークの社員や時短勤務の社員も情報格差を感じることなく業務に参加でき、マネジメント層も部下の状況を把握しやすくなりました。結果、離職率は劇的に低下し、多様な人材が活躍できる組織風土が醸成されました。「コミュニケーション不足」や「マネジメントの複雑化」という課題を、テクノロジーと情報共有の文化づくりで乗り越えた先進的な事例です。
味の素株式会社:全社的な業務改革でテレワークの生産性を向上
味の素株式会社は、全社的なテレワーク制度「どこでもオフィス」を導入するにあたり、生産性の低下という大きな壁に直面しました。特定の部署だけでなく、工場や研究所を含む全社員が時間や場所にとらわれずに働ける環境を目指したため、業務プロセスの抜本的な見直しが不可欠でした。同社は、単に制度を導入するだけでなく、徹底したペーパーレス化、会議の目的・時間・参加者の見直し、そしてRPA(Robotic Process Automation)による定型業務の自動化を同時に推進しました。
これにより、社員は場所を選ばずに付加価値の高い業務に集中できるようになり、労働時間を削減しながらも生産性を維持・向上させることに成功しました。働き方改革は制度の導入だけでなく、それを支える業務インフラの変革が伴って初めて成功するということを示す、示唆に富んだ事例と言えるでしょう。
まとめ

働き方改革は、長時間労働の是正や多様な働き方の実現を目指す重要な取り組みですが、その過程で企業と従業員の双方にデメリットが生じる可能性があります。企業側は生産性の低下や管理コストの増加、従業員側はサービス残業や収入減少といった課題に直面しがちです。これらのデメリットは、単に残業時間を削減するといった表面的な対策だけでは解決が難しく、かえって現場の負担を増大させる原因となります。
重要なのは、働き方改革の本質を理解し、そのデメリットを乗り越えるための具体的な対策を講じることです。業務プロセスの抜本的な見直しやITツールの積極的な活用、成果を正当に評価する人事制度の構築、そして円滑なコミュニケーションを促す仕組みづくりが不可欠です。これらの課題に真摯に向き合い、組織全体で取り組むことで、デメリットを克服し、真の生産性向上と従業員満足度を両立させ、企業の持続的な成長へと繋げることができるでしょう。