「有給休暇、制度としてはある。でも、誰も気軽に使えていない」。
そんな空気感が残る職場は、まだまだ少なくありません。2019年の法改正によって、年5日の有給取得が義務化されたとはいえ、「義務だから仕方なく」といった雰囲気で取得されているケースも多く、休暇を取得すること自体に心理的なハードルが存在している企業も多いのが現実です。
では、どうすれば社員がもっと気持ちよく、そして自然に有給休暇を使えるようになるのでしょうか?
実は今、多くの企業が“ユニークな制度”や“遊び心ある施策”を取り入れることで、取得率の向上に成功しています。
この記事では、有給取得が「義務」ではなく「楽しみ」になるような制度づくりのヒントを、実例を交えてご紹介。人事担当者や制度設計に関わる方に向けて、使いたくなる制度の設計・運用方法を具体的に解説していきます。
Contents
有給取得促進が必要な背景と制度義務の現状

義務化された5日取得ルールと取得率の現状
2019年4月、働き方改革関連法により、年10日以上の有給休暇が付与されている労働者に対して、年5日の有給休暇取得が企業側に義務化されました。これは、形式だけの「制度」が実際には活用されていない実態に対する政府の強いメッセージでもあり、企業にはこの5日取得を確実に実施する責任が課せられました。
しかし、義務化から数年が経過した今も、日本の有給休暇取得率は国際的に見て低水準です。厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、令和5年の取得率は約62.1%。過去と比べれば改善傾向にはあるものの、依然として3人に1人は付与された休暇を使い切れていない計算になります。
この現状から見えてくるのは、「制度がある=使われている」わけではないという事実です。ルールだけでは、人は動きません。有給を“使いたくなる”理由やきっかけがなければ、休むこと自体が気まずく、消極的になってしまうのが人間心理です。
取得率向上のメリット(生産性・従業員満足)
有給休暇の取得が進まないと、企業にもさまざまな影響が及びます。まず、従業員の疲労蓄積による生産性の低下や、メンタル不調・離職リスクの増大が挙げられます。慢性的な疲労は、集中力や創造性を低下させるばかりでなく、判断ミスやトラブルの温床となります。
一方、有給休暇をしっかり取得できている従業員は、オンとオフの切り替えがうまく、仕事に対するモチベーションや満足度が高いという傾向もあります。心身のリフレッシュができてこそ、日々の業務でパフォーマンスを発揮できるのです。
さらに、休暇制度の運用は採用や定着率にも直結します。求人媒体でも「有給取得率〇%」をアピールする企業が増えているように、求職者は「休みが取りやすいかどうか」を重視しています。取得率が高い企業は、「働きやすさ」が可視化されており、魅力ある職場として評価されやすくなります。
なぜ企業は取得促進に苦戦するのか?
有給休暇取得の必要性やメリットが理解されていても、現場ではなかなか取得が進まない――これは多くの企業が直面している課題です。その原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 「休むと迷惑がかかる」という遠慮文化
特にチーム単位で仕事を進める職場では、「自分が休んだら誰かに負担がいく」という罪悪感から、取得を控える傾向があります。 - 管理職の理解・協力不足
上司自身があまり休まず、「有給は甘え」という無言のプレッシャーを与えてしまっている場合、部下も取得しにくくなります。 - 制度はあるが、実際にどう使うのか分かりづらい
申請フローが複雑であったり、代替要員の確保が難しかったりと、実務的なハードルも取得促進を妨げています。 - 「休む理由を聞かれる」心理的障壁
有給は本来「理由不要」ですが、実際には「なんで休むの?」と聞かれてしまうことが取得の妨げになっているという声も多くあります。
このように、「制度疲労」を起こしている職場環境では、有給休暇はあっても使われない“お飾り”になってしまいます。だからこそ、取得を“楽しみに変える”仕組みが必要です。それが、ユニークな有給制度導入という新たなアプローチに注目が集まる理由でもあるのです。
ユニークな取得促進制度の事例集

休暇を「楽しく、使いたくなるもの」へ
有給休暇の本質は“リフレッシュ”ですが、その目的や形は一律である必要はありません。多くの企業が「制度は整っているのに使われない」という課題に直面する中で、ユニークなアイデアを盛り込んだ制度によって、有給のイメージを一新する取り組みが注目されています。
以下では、全国の企業が実際に導入しているユニークな休暇制度の事例を紹介します。単に「休める」だけでなく、「休みたくなる」仕掛けこそが、取得率向上のカギなのです。
「浮世離れ休暇」:1カ月まるごとリフレッシュ
大阪のあるベンチャー企業では、勤続3年以上の社員に1カ月の連続休暇を付与する「浮世離れ休暇」を導入しています。目的は、“一度仕事から完全に離れて自分を見つめ直す時間”を与えること。旅行、ボランティア、留学、自己研鑽など使い方は自由で、有給として扱われます。
この制度により、取得後はモチベーションが大きく向上し、離職率が低下したという効果も報告されています。長期休暇は業務調整の手間もかかりますが、休むことで得られる効果が想像以上に大きいことを証明した好事例です。
「健康促進休暇」:病欠ゼロで1日プレゼント
あるIT企業では、半年間の無欠勤・遅刻ゼロを達成した社員に「健康促進休暇」として1日の特別有給を付与。頑張ったご褒美としてのインセンティブが、社員の健康意識とモチベーションを高めています。
「休んでいい理由があると、気兼ねなく申請できる」という声が多く、取得率は導入前の約1.5倍に上昇しました。休むことにポジティブな意味付けをすることで、心理的なハードルを下げた好例です。
「アイディア休暇」:理由がユニークならOK!
「休みの理由が面白ければ、何でもOK」という大胆な制度も登場しています。たとえば、「マンガ全巻読み直し休暇」「ペットの誕生日休暇」「失恋リカバリー休暇」など、常識にとらわれない理由での取得を歓迎することで、職場にユーモアと柔軟性が生まれています。
この制度を取り入れた企業では、申請理由をあえてオープンにし、社内SNSなどで共有する取り組みも。「あの人、◯◯休暇で今日休みなんだ(笑)」という会話が生まれ、有給に対するポジティブな空気が醸成されているのです。
「非喫煙者特別休暇」:禁煙者へのご褒美制度
神奈川県のある企業では、喫煙をしない社員に対して年間6日の特別有給を付与しています。喫煙者の休憩時間を換算すると非喫煙者との不公平がある、という従業員の声から生まれた制度で、禁煙の促進にもつながっています。
ユニークでありながら健康経営の一環でもあり、企業の姿勢を示すブランディングとしても効果を発揮しています。
「連続有給手当」:連休取得でボーナス支給
「ただの有給じゃもったいない!」という社員に向けて、3連休以上の取得で手当が支給されるという制度を導入した企業もあります。たとえば、「夏の5連休取得で1万円ボーナス」など、連続休暇を奨励することで、まとめてリフレッシュする機会を提供しています。
取得率が伸び悩んでいた企業でも、この制度導入後に年次有給休暇の消化率が70%超に到達するなど、明確な成果が現れました。
「アニバーサリー休暇」:自分の記念日を自由に設定
誕生日だけでなく、結婚記念日、推しの誕生日、付き合った記念日など、個人が自由に「記念日」を設定できる休暇も人気です。「会社から祝われる」という感覚が社員の愛着につながり、制度としての定着率も高いのが特徴です。
この取り組みは、多様な価値観を認め合う職場文化の象徴にもなり、「働きやすい職場づくり」の一環として注目されています。
「休暇チケット」:使わないと“もったいない”心理を活用
紙のチケットやデジタルクーポンのような形で、有給休暇を“見える化”し、「使用期限付きチケット」として配布することで、“消費しなければ損”という心理を刺激する取り組みもユニークです。
カレンダー上に「休暇利用期限」を明記することで、計画的な取得も促進。ゲーム的な感覚で楽しく休暇管理ができると好評を得ています。
ユニーク施策を導入する際のポイント

制度の目的を明確に伝える工夫
ユニークな休暇制度を導入する際、最初に企業として考えるべきことは、「なぜこの制度を設けるのか?」という導入目的の明確化です。単に面白いから、流行っているからではなく、「有給休暇の取得促進」や「従業員満足度の向上」「チームのリフレッシュ促進」といった経営的・組織的意義を明示することで、制度が一過性のイベントに終わらず、社内に定着しやすくなります。
たとえば、健康促進休暇であれば「社員の健康意識向上」、アニバーサリー休暇なら「社員のライフイベントに寄り添う企業姿勢」といった具合に、制度の“意味”を共有することが重要です。このように、制度の背景にある価値観を社内で共有することが、成功の第一歩となります。
使いやすさを支える仕組み設計(半休OK、申請簡略化)
どれだけ魅力的な制度でも、「使いづらい」と感じられた瞬間に、取得率は一気に落ちてしまいます。そこで必要なのは、制度の中身以上に“使いやすさ”を徹底的に設計することです。
まず、有給休暇の申請方法は、なるべく簡潔に。複雑な申請フローや上長の多重承認、紙ベースの手続きなどは、ハードルを上げてしまいます。スマホやPCから即時申請できる仕組みを整備するだけでも、心理的・実務的な障壁は大きく下がります。
また、「半日単位」「時間単位」での有給取得が可能であれば、育児や介護、通院、推し活などに柔軟に対応でき、日常的な使いやすさが格段に向上します。ユニークな制度も、「実際にどう使えるか?」の視点で設計することで、現場での浸透率が高まります。
経営層・管理職の協力を得るコミュニケーション
どんなに制度が優れていても、実際に現場で利用されるかどうかは、管理職の理解と支援にかかっていると言っても過言ではありません。「また変な制度が始まった」と受け取られてしまえば、形骸化は避けられません。
そこで重要になるのが、導入前後の対管理職コミュニケーションです。制度の目的や期待される成果、運用ルールを丁寧に共有し、「チーム全体で休暇をとりやすくするマネジメント」をお願いすることが大切です。
また、経営層や役員自らが制度を利用する姿勢を見せることも、社内文化の醸成に大きな影響を与えます。「上司も取っているのだから、自分も取っていいんだ」という安心感は、制度活用の大きな後押しになります。
定着させるための文化醸成と可視化
ユニーク制度は、一過性のイベントではなく、“文化として根づかせる”ことが最終ゴールです。そのためには、制度を「導入して終わり」ではなく、可視化・共有・振り返りといったプロセスが重要です。
たとえば、制度を使った社員の体験談や休暇の過ごし方を社内でシェアしたり、「今月の取得率」などを掲示したりすることで、チーム全体の意識向上を促せます。また、チームごとの取得率にインセンティブを設けるなど、「仲間と一緒に取る」仕掛けを設けるのも有効です。
さらに、制度の効果や課題を定期的にレビューし、フィードバックをもとに制度をアップデートしていく姿勢が、従業員の信頼を高めます。「使ってみたけど、こうしたらもっと良くなる」という声を拾い、制度に反映させることで、制度は“会社から与えられるもの”ではなく、“自分たちで育てるもの”へと変化していきます。
このように、ユニークな制度の導入はアイデアだけでなく、設計力と現場浸透力の両輪が求められます。企業ごとの文化や組織構造に合わせて丁寧に運用することが、制度を“飾り”ではなく“武器”に変える鍵となるのです。
ユニーク施策による成果と効果検証

取り組みの成果は「数字」と「空気感」に現れる
ユニークな有給休暇制度は「遊び」に見える一方で、実際には有給取得率の向上、定着率改善、生産性向上など、明確な成果につながっているケースが多く見られます。特に、「楽しく休む文化」を社内に浸透させた企業では、単なる制度利用にとどまらず、職場の雰囲気や社員のエンゲージメントにも良い影響が出ています。
以下では、実際の企業の取り組みと成果を通じて、制度がどのように効果を上げているのかを具体的に紹介します。
セブンイレブン・ジャパン:取得率向上と残業削減を同時に実現
コンビニ業界は人手不足や業務負荷の高さから、有給取得が進みにくいとされてきました。そんな中、セブンイレブン・ジャパンでは、「業務の平準化」や「代替要員の計画配置」などの体制整備を進め、有給休暇の計画的取得を促進。さらに、店長やSVが「率先して休む」ことを推奨する文化づくりを行い、数年で取得率を大きく改善しました。
結果として、取得率は全国平均を上回る水準にまで上昇。同時に、勤務時間管理の意識も高まり、残業時間の削減や労使トラブルの減少にも寄与したとされています。
ダッドウェイ:ファミリーサポート休暇で働きやすさを可視化
育児用品メーカー「ダッドウェイ」では、配偶者の出産時や子どもの看護、家族のイベント参加などを目的とした「ファミリーサポート休暇を導入。年間最大5日間、通常の有給とは別に取得可能なこの制度は、「育児も家族も大事にできる会社」というメッセージ性が高く、社員からも好評です。
この制度を導入してから、有給休暇の総取得率が15%以上向上。また、採用活動でも「育児に理解がある企業」としてのブランドイメージが浸透し、応募者の質・量ともに向上したとの報告があります。
パルコ:ライフスタイルに合わせた記念日休暇制度
商業施設を運営するパルコでは、誕生日や記念日などの「マイアニバーサリー休暇」を導入。社員自身が自由に「休みたい日」を設定できることで、個人の価値観やライフスタイルに寄り添った働き方が可能になりました。
特筆すべきは、制度の“遊び心”に社員が共感し、自発的な取得が広がっている点です。「今月は◯◯の日で休みます」といった申請が日常化し、有給休暇の取得が“特別なこと”ではなく“日常の一部”として定着しつつあります。結果として、従業員満足度(ES)スコアも前年比で10%以上アップという成果が見られました。
中小企業でもできる:制度の“見せ方”が鍵
ユニークな休暇制度は、大企業だけの特権ではありません。中小企業でも、「無理なく、でもインパクトのある制度」を設計することで、大きな効果を得られるケースがあります。
たとえば、ある飲食企業では「ペットの誕生日休暇」「失恋休暇」「推し活応援休暇」など、“共感性の高い理由”に限定した有給取得を導入。制度発表時には社内チャットで爆笑が起きたものの、その後、毎月の取得件数が倍増し、有給消化率が40%から80%台へ向上。
従業員からは「有給を取るのが楽しみになった」「周囲にも気軽に取得を勧めやすくなった」といった声が多く寄せられ、職場の空気が大きく変わったといいます。
成果のポイントは「制度設計 × 社内の雰囲気」
以上の事例から明らかなのは、制度の内容自体が斬新であること以上に、「制度がどう受け取られ、どう使われるか」が成功の鍵であるということです。制度が「使っていい空気」に包まれていれば、多少の手間やルールがあっても、自然と定着していきます。
また、制度の成果は数値だけではなく、職場の空気感や社員同士の会話、休暇明けの表情など、目に見えにくいところにも現れます。人事やマネジメント層がそうした変化を敏感に察知し、次の施策に生かす姿勢が、制度の本当の価値を引き出すのです。
ユニーク制度 × 計画的取得の両輪で取得促進を目指す

計画取得とユニーク制度を両立させる視点
有給休暇の取得率を本気で高めたいなら、「制度」と「習慣」の両輪が必要です。これまで紹介してきたユニークな休暇制度は、社員の自発的な取得を促す“きっかけ”として機能しますが、それだけでは組織全体の取得率には限界があります。
そこで活用したいのが、「計画的取得制度」との組み合わせです。あらかじめ社員ごとに年間の有給取得計画を立てさせることで、業務調整やチーム編成もしやすくなり、「休んでも大丈夫」という安心感が生まれます。
特に製造業やサービス業など、業務が繁閑に左右されやすい業界では、閑散期に集中して取得を促す施策が有効です。ユニーク制度が「楽しく休む理由」を提供し、計画的取得が「休んでも大丈夫な環境」を整える。これこそが、有給取得率を飛躍的に伸ばす鍵です。
チーム単位での取得促進が文化を変える
計画的取得を実行するには、個人任せでは限界があります。そこで効果的なのが、チーム単位での取得管理・可視化です。たとえば、「月に最低1日は全員が交代で休む」「チームで取得率90%を目指す」といったチーム目標を設定すると、個人の取得が“自分だけの問題”から“チーム全体の課題”へと意識が変わります。
さらに、休暇予定を共有する「チーム休暇カレンダー」や「取得率ランキング表」などを活用することで、チーム内での取得が活性化。仲間同士で気軽に「そろそろ休んだら?」と言い合える雰囲気が生まれます。
これは、ユニーク制度の効果を高めるためにも重要です。面白い制度を導入しても、チームに理解者がいなければ「浮いてしまう」のが現実。だからこそ、チーム全体で「取っていい」「取って当然」という文化をつくることがカギになります。
KPIとPDCAで制度を進化させる
制度を導入しただけでは終わりません。重要なのは、その制度が実際に成果を出しているかどうかを“見える化”し、改善し続けることです。たとえば、以下のような指標をKPIとして設定しましょう。
- 年間の平均取得日数
- 計画通りの取得率
- ユニーク休暇の利用者数
- 取得後アンケートによる満足度
これらのデータを定期的に集計し、人事や経営層でレビューを行うことで、「制度が飾りになっていないか」「次に改善すべき点はどこか」が明確になります。そして、社員の声をもとに制度をチューニングすることで、制度は“企業文化の一部”として定着していくのです。
まとめ

有給休暇は、働く人にとって「当たり前の権利」でありながら、いまだに「気を使うもの」とされがちです。そんな空気を変えるためには、企業側の明確な意志と、それを形にする制度設計が欠かせません。
ユニークな制度は、有給を「使わされる義務」から「使いたくなる楽しみ」へと変える力を持っています。そこに計画的な取得管理や、チームでの促進文化が加われば、休暇取得は自然な行動へと変化していきます。
「休んで、笑って、またがんばれる」――そんな職場が増えれば、働く人たちも企業も、もっと健康で、もっと前向きになれるはずです。あなたの会社も、まずは“1つのユニーク制度”からはじめてみませんか?