ES(従業員満足度)の向上は、離職率の低下や生産性向上に直結する重要な経営課題です。本記事では、ESの定義やエンゲージメントとの違いといった基本から、サーベイによる測定、人事制度や働き方改革などの具体的な改善施策、さらには先進企業の事例までを網羅的に解説します。企業の持続的成長に不可欠なES向上のための、体系的な知識と実践的なロードマップがわかります。
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ES 従業員満足の定義と重要性

ES(Employee Satisfaction)とは、日本語で「従業員満足度」と訳され、従業員が自身の働く環境や仕事内容、人間関係、処遇などに対してどの程度満足しているかを示す指標です。近年、人材の流動化が加速し、優秀な人材の確保・定着が企業の競争力を左右する重要な経営課題となる中で、ESの重要性はますます高まっています。単に働きやすい環境を提供するだけでなく、ESを戦略的に向上させることは、生産性の向上や企業価値の増大に直結します。本章では、人事担当者がまず押さえておくべきESの基本的な定義と、なぜ今ESが重要視されるのかについて、多角的な視点から解説します。
ESと従業員エンゲージメントの違いと関係
ESと混同されやすい言葉に「従業員エンゲージメント」があります。ESが職場環境や待遇といった会社から与えられる要素に対する「満足度」という受動的な指標であるのに対し、従業員エンゲージメントは、従業員が企業に対して抱く「貢献意欲」や「愛着」といった能動的な関与を示す指標です。両者は密接に関連しており、ESはエンゲージメントを支える土台となります。劣悪な労働環境や不公平な評価制度のもとで、高いエンゲージメントを維持することは困難です。しかし、注意すべきは、ESが高いからといって必ずしもエンゲージメントが高いとは限らない点です。満足はしていても、それ以上の貢献意欲がない状態もあり得ます。企業が目指すべきは、ESを基盤として従業員のエンゲージメントを高め、組織全体の活力を引き出すことです。
CSとの連動と業績への影響
ESの向上は、CS(Customer Satisfaction:顧客満足度)の向上と密接に連動し、最終的に企業の業績に大きな影響を与えます。この関係性は「サービス・プロフィット・チェーン」という理論で説明されています。従業員満足度が高まると、従業員は自社のサービスや製品に誇りを持ち、モチベーション高く業務に取り組みます。その結果、提供するサービスの質が向上し、顧客満足度が高まります。満足した顧客はリピーターとなり、安定した収益をもたらすことで、企業の利益が増大するという好循環が生まれるのです。つまり、ES向上は単なる福利厚生のコストではなく、企業の持続的な成長を支えるための戦略的投資と捉えるべきです。離職率の低下による採用・教育コストの削減や、従業員からの自発的なアイデア創出など、その効果は多岐にわたります。
心理的安全性とウェルビーイングの観点
現代のESを考える上で、「心理的安全性」と「ウェルビーイング」の観点は欠かせません。心理的安全性とは、チーム内での対人関係においてリスクのある行動を取っても、メンバーが非難したり罰したりしないと信じられる状態を指します。心理的安全性が確保された職場では、従業員は失敗を恐れずに新しい挑戦をしたり、建設的な意見を述べたりすることができます。このような環境は、従業員のストレスを軽減し、仕事への満足度を直接的に高めます。一方、ウェルビーイングは、身体的・精神的・社会的にすべてが満たされた良好な状態を意味します。企業が従業員の健康や働きがい、キャリア形成を支援し、ウェルビーイングの実現を追求することは、ESの根幹を支える重要な取り組みです。ESを一時的な満足度調査の数値として捉えるだけでなく、持続的な幸福と成長を支援する視点が求められています。
ESを高める基本フレーム

従業員満足度(ES)の向上は、福利厚生の充実といった単発の施策だけで実現するものではありません。従業員が会社や仕事に対して抱く満足感を根本から高めるには、組織の根幹をなす体系的なフレームワークが必要です。ここでは、ES向上の土台となる3つの重要な柱、「ミッションとバリューの浸透」「人事制度と評価報酬の整合」「働き方とワークライフバランス」について、具体的なアプローチを交えながら解説します。これらのフレームを整備することが、持続的なES向上と組織の成長に繋がります。
ミッションとバリューの浸透
従業員が自社の存在意義(ミッション)や価値観(バリュー)に深く共感し、日々の業務に意味を見出すことは、ES向上の根源的な要素です。自分の仕事が会社の目指す方向性に貢献しているという実感は、金銭的報酬だけでは得られない「意味報酬」となり、従業員のモチベーションとエンゲージメントを飛躍的に高めます。逆に、理念が形骸化し、日々の業務との繋がりが見えなければ、従業員は「何のために働いているのか」という疑問を抱き、働きがいを失ってしまいます。ミッションやバリューをただ掲げるだけでなく、全従業員の行動指針として組織の隅々にまで浸透させることが不可欠です。
社内広報と社内SNSの活用
ミッションやバリューを浸透させる具体的な手法として、社内広報と社内SNSの戦略的活用が挙げられます。社内報やイントラネットを通じて、経営層が自らの言葉で理念に込めた想いや事業の方向性を繰り返し発信することは、従業員の理解を深める上で基本となります。さらに、バリューを体現した従業員やチームのストーリーを取り上げ、表彰・紹介することで、理念が具体的な行動に結びついていることを示せます。また、SlackやMicrosoft Teamsといったビジネスチャットツール上に専用チャンネルを設け、従業員同士が理念に関する成功体験や日々の気づきを気軽に共有できる場を作ることで、トップダウンの伝達だけでなく、ボトムアップでの文化醸成が促進されます。
人事制度と評価報酬の整合
従業員が会社から公正に扱われていると感じることは、ESを支える上で極めて重要です。特に、自身の貢献がどのように評価され、報酬に結びつくのかという人事制度の公平性・透明性は、従業員の会社に対する信頼感を大きく左右します。評価基準が曖昧であったり、上司の主観に左右されたりする制度では、従業員は不満や不信感を募らせ、エンゲージメントは著しく低下します。会社の掲げるミッションやバリューと、従業員の行動を評価し報いる仕組みが一貫して連動している状態を構築することが、従業員の納得感を醸成し、ES向上に繋がる鍵となります。
人事評価と報酬制度の見直しポイント
人事制度の納得感を高めるためには、定期的な見直しが欠かせません。見直しのポイントは主に3つです。第一に、評価基準の明確化です。業績目標(MBOやOKR)だけでなく、会社のバリューに沿った行動を評価する「コンピテンシー評価」を導入し、何をすれば評価されるのかを具体的に示します。第二に、評価プロセスの透明化です。評価者へのトレーニングを徹底し、評価のブレをなくすとともに、期末のフィードバック面談を丁寧に行い、評価理由を本人が納得できるまで説明します。第三に、評価と報酬の連動性です。成果だけでなく、プロセスや他者への貢献も報酬に反映させるピアボーナス制度などを導入し、多角的な貢献が報われる仕組み’mark>を整えることが有効です。
働き方とワークライフバランス
従業員が心身ともに健康で、プライベートな時間も大切にしながら生き生きと働ける環境は、ESの土台そのものです。特に近年、従業員の価値観は多様化しており、画一的な働き方を強いる企業は優秀な人材から選ばれなくなっています。育児や介護といったライフステージの変化や、個人のキャリアプランに応じて、時間や場所を柔軟に選択できる制度を整備することは、従業員の満足度を高めるだけでなく、離職率の低下や人材獲得競争力の強化にも直結します。単に制度を用意するだけでなく、長時間労働を是正し、休暇を取得しやすい組織風土を醸成することが本質的な課題と言えるでしょう。
リモートワークとハイブリッドワークの設計
多様な働き方を実現する上で、リモートワークやハイブリッドワークの制度設計は中心的なテーマです。これらの制度を成功させるには、単に場所の自由を認めるだけでは不十分です。まず、コミュニケーションの質と量を担保する工夫が必要です。定例でのオンライン朝礼や、業務以外の雑談を推奨するチャットチャンネルの設置などが有効です。次に、公平な評価制度の構築が求められます。オフィス勤務者とリモート勤務者の間で情報格差や評価の不公平が生じないよう、成果や行動を可視化する仕組みが不可欠です。生産性や組織としての一体感を維持しながら、個々の従業員が最もパフォーマンスを発揮できる環境を、会社と従業員が一体となって設計していく視点が重要になります。
ESの測定と可視化

従業員満足度(ES)の向上施策を効果的に進めるためには、まず現状を正確に把握し、課題を可視化することが不可欠です。感覚的な議論や思い込みに基づく施策は、時間とコストを浪費するだけでなく、かえって従業員の不満を高めるリスクさえあります。ここでは、データに基づいた客観的なアプローチでESを測定・可視化し、具体的なアクションに繋げるための手法を網羅的に解説します。勘や経験に頼る人事から、データドリブンな人事戦略へと転換する第一歩が、この「測定と可視化」のプロセスです。
サーベイ設計の基本
ES測定の最も基本的かつ効果的な手法が、従業員サーベイです。サーベイを設計する際は、単に満足度を問うだけでなく、その背景にある要因(仕事内容、人間関係、評価制度、労働環境など)を多角的に探ることが重要です。設問は具体的で、回答者が自身の状況を正直に表現できるような表現を心がけましょう。また、年に一度の大規模な意識調査だけでなく、より短いサイクルで組織の状態を定点観測する手法を組み合わせることで、変化の兆候を早期に捉え、迅速な対策を講じることが可能になります。サーベイは単なるアンケートではなく、組織と従業員の健全な対話を促すための重要なツールであると認識し、目的を明確にした上で設問を設計することが成功の鍵となります。
パルスサーベイとeNPSの活用
高頻度かつ簡易的な調査である「パルスサーベイ」は、組織の健康状態をリアルタイムで把握するのに非常に有効です。週次や月次で1〜5問程度の簡単な質問を繰り返すことで、施策の効果測定や問題の早期発見・早期対応が可能になります。一方、「eNPS(Employee Net Promoter Score)」は、「現在の職場を親しい友人や知人にどの程度勧めたいですか?」という究極の質問を通じて、従業員の職場に対するロイヤルティを数値化する指標です。算出方法がシンプルで他社比較もしやすいため、経営層への報告や組織目標としても活用しやすいメリットがあります。これらを組み合わせることで、組織の「今」を多角的に捉えることができます。
360度評価とフィードバック文化
従業員満足度、特にマネジメント層への満足度を測る上で「360度評価(多面評価)」は強力なツールです。上司からだけでなく、同僚や部下といった複数の視点からフィードバックを得ることで、管理職は自身の強みや改善点を客観的に認識できます。しかし、360度評価を単発のイベントで終わらせず、日常的なフィードバック文化の醸成に繋げること’mark>が最も重要です。評価結果を元にした1on1の実施や、ポジティブなフィードバックを奨励する仕組みを整えることで、心理的安全性の高い、風通しの良い組織風土が育まれ、結果としてES全体の向上に貢献します。
KPIとOKRへの落とし込み
測定したES関連の数値を、具体的な組織目標に落とし込むことで、全社的な取り組みへと昇華させることができます。そのためのフレームワークがKPIとOKRです。例えば、離職率やエンゲージメントスコア、eNPSの数値を「KPI(重要業績評価指標)」として設定し、人事部門や各事業部門の目標として定期的にモニタリングします。さらに、「OKR(Objectives and Key Results)」を活用し、「従業員が最高のパフォーマンスを発揮できる組織を作る」といった定性的な目標(Objective)に対し、「eNPSを前期比で10ポイント向上させる」といった具体的な成果指標(Key Results)を設定することで、経営戦略とES向上施策が一直線に結びつきます。これにより、従業員一人ひとりが自身の業務と組織目標との繋がりを意識しやすくなります。
ピープルアナリティクスの実践
ピープルアナリティクスとは、サーベイ結果や勤怠データ、人事評価データといった様々な人事関連データを統合・分析し、組織の課題解決や意思決定に活用するアプローチです。これにより、これまで経験や勘に頼りがちだった人事施策の立案・評価を、客観的なデータに基づいて行うことが可能になります。例えば、「どのような経験を持つ社員がハイパフォーマーになりやすいか」「エンゲージメントスコアと生産性の間にはどのような関係があるか」といった問いに、データで答えを導き出すことができます。データに基づいたインサイトは、経営層への説得力を高め、より効果的な人事戦略の実行を後押しします。まずはスモールスタートで、手元にあるデータの分析から始めてみることが重要です。
離職率や生産性との相関分析
ピープルアナリティクスの具体的な手法として、まず取り組むべきが相関分析です。例えば、パルスサーベイで取得した「上司との関係性」のスコアと、部署ごとの「離職率」を時系列で分析することで、両者の間に関係性があるかを検証できます。もし強い相関が見られれば、管理職向けのコミュニケーション研修が離職率低下に繋がるという仮説の有力な根拠となります。同様に、エンゲージメントスコアと営業成績や顧客満足度(CS)といった業績指標との相関を分析することで、ES向上が単なるコストではなく、事業成長に直結する重要な投資であることを定量的に証明できます。こうした分析結果は、施策の優先順位付けや投資判断において極めて重要な役割を果たします。
実行施策のロードマップ

ES(従業員満足)の現状を測定・可視化したら、次に取り組むべきは具体的な改善施策の計画と実行です。ここでは、測定結果から見えた課題に基づき、効果的な施策を体系的に実行するためのロードマップを解説します。単発のイベントで終わらせるのではなく、短期・中期・長期の視点で優先順位をつけ、継続的な取り組みとして組織文化に根付かせることが成功の鍵となります。
オンボーディングとリテンション強化
従業員満足度向上の第一歩は、新しく迎えた仲間が早期に組織に溶け込み、安心して能力を発揮できる環境を整えることから始まります。オンボーディングは、単なる業務説明や手続きの場ではありません。企業のビジョンやバリューを共有し、組織への帰属意識を高め、円滑な人間関係の構築を支援する極めて重要なプロセスです。具体的な施策としては、配属先の先輩社員が業務と精神面の両方をサポートする「メンター制度」の導入や、部署の垣根を越えた交流を促すランチ会の企画などが有効です。また、入社後1ヶ月、3ヶ月といった節目でのフォローアップ面談を通じて、悩みや不安を早期にキャッチし解消することも離職防止に繋がります。リテンション(人材定着)の観点からは、個々のキャリアプランを支援する仕組みや、挑戦を促す公正な評価制度が不可欠です。
コミュニケーションとマネジメント強化
従業員の満足度やエンゲージメントに最も大きな影響を与える要因の一つが、職場内のコミュニケーションの質と直属の上司によるマネジメントです。特に、部署内の風通しの良さは、従業員の心理的安全性を確保し、建設的な意見や新しいアイデアが生まれやすい土壌を作ります。日々の業務における情報共有の円滑化はもちろん、従業員一人ひとりの声が経営層に届く仕組みを構築することが重要です。そのためには、管理職の役割が決定的な意味を持ちます。部下のモチベーションを引き出し、成長を支援し、適切なフィードバックを行うための「マネジメント研修」や「リーダーシップ開発プログラム」への投資は、組織全体のES向上に直結します。全社定例やタウンホールミーティング、社内報などを活用し、経営方針や事業の進捗を透明性高く共有することも、従業員の信頼と一体感を醸成する上で効果的です。
1on1とコーチング
定期的な1on1ミーティングは、上司と部下の信頼関係を深め、従業員エンゲージメントを高めるための強力なツールです。これは業務の進捗確認や評価面談とは異なり、部下のキャリア観や価値観、プライベートを含めたコンディションについて対話し、個人の成長を支援することに主眼を置くべきです。効果的な1on1のためには、上司が「傾聴」の姿勢を徹底し、部下が本音で話せる心理的安全性を確保することが大前提となります。さらに、単にアドバイスを与えるのではなく、質問を通じて部下自身に気づきを促し、内発的動機を引き出す「コーチング」のスキルが求められます。これにより、従業員は自律的に課題解決に取り組むようになり、仕事への当事者意識と満足度が向上します。1on1の形骸化を防ぐため、目的やアジェンダを事前に共有し、対話の内容を記録・蓄積していく仕組みづくりも重要です。
福利厚生と健康経営
福利厚生は、給与や賞与といった金銭的報酬だけでは満たされない従業員の満足度を補完し、働きがいや生活の質(QOL)を向上させるための重要な施策です。かつてのような画一的な制度ではなく、従業員のライフステージや価値観の多様化に対応できる「選択型福利厚生(カフェテリアプラン)」などが近年のトレンドです。住宅補助、育児・介護支援、自己啓発支援、リフレッシュ休暇など、従業員が自身のニーズに合わせてメニューを選べる制度は、満足度を大きく高めます。さらに近年では、従業員の心身の健康を重要な経営資源と捉え、戦略的に投資する「健康経営」の視点が不可欠です。健康診断のオプション補助や人間ドックの費用負担、スポーツジムの利用補助、社内での健康セミナー開催などを通じて、従業員の健康増進を積極的に支援する企業が増えています。
メンタルヘルスとストレスチェック
従業員が心身ともに健康で、いきいきと働ける職場環境を実現するためには、メンタルヘルス対策が欠かせません。特に、現代社会におけるストレスは多様化・複雑化しており、企業には予防から不調者の早期発見、復職支援まで一貫した体制づくりが求められます。労働安全衛生法で義務付けられている「ストレスチェック」は、その第一歩です。個人のセルフケアを促すだけでなく、集団ごとの分析結果を職場環境の改善に繋げることが、制度を有効活用する上での鍵となります。具体的な取り組みとしては、産業医や保健師、臨床心理士といった専門家と連携し、気軽に相談できる窓口(EAP:従業員支援プログラム)を設置することや、管理職を対象とした「ラインケア研修」を実施し、部下の不調の兆候に早期に気づき対応できるスキルを身につけてもらうことが挙げられます。安心して休職し、円滑に職場復帰できる支援プログラムの整備も、従業員のエンゲージメント維持に不可欠です。
ツールとサービスの選び方
従業員満足度(ES)向上の施策を効率的かつ効果的に進めるためには、テクノロジーの活用が不可欠です。近年、人事領域の課題解決を支援する「HRテック」と呼ばれる多様なツールやサービスが登場しています。しかし、自社の課題や目的に合わないツールを導入しても、期待した成果は得られません。ここでは、ES向上に貢献するツールの選定ポイントと、代表的なサービスの特徴について、具体的な活用シーンを交えながら解説します。
HRテックとサーベイツールの比較観点
ES向上を目的としたツール選定では、まず「何を解決したいのか」という目的を明確にすることが重要です。その上で、機能の網羅性、操作性、既存システムとの連携性、サポート体制、コストといった多角的な視点で比較検討します。例えば、従業員のコンディションをリアルタイムで把握したいならパルスサーベイ機能が、人材育成や配置の最適化が目的ならタレントマネジメント機能が必須となります。従業員と管理者の双方が直感的に使えるUI/UXであるかも、利用率を左右する重要な要素です。また、給与計算システムや勤怠管理システムと連携できれば、人事データを一元化し、より深い分析が可能になります。導入後の運用を軌道に乗せるためには、ベンダーのサポート体制の手厚さも事前に確認しておきましょう。
SmartHRやカオナビなどの活用例
労務管理やタレントマネジメントに強みを持つツールは、人事部門の業務効率化と戦略的な人材活用を通じてES向上に貢献します。「SmartHR」は、入退社手続きや年末調整といった煩雑な労務手続きをペーパーレス化し、従業員と人事担当者双方の負担を大幅に軽減します。従業員体験(EX)の向上は、そのまま満足度アップに直結します。また、蓄積された従業員データベースは、組織状態の可視化にも活用できます。一方、「カオナビ」は、顔写真が並ぶ直感的なインターフェースで、社員のスキルや経歴、評価といった情報を一元管理することに長けています。これにより、適材適所の人材配置や、エンゲージメントの高い社員の抜擢が容易になり、従業員のキャリアへの納得感を醸成します。
モチベーションクラウドやTalent Paletteの特徴
組織診断やエンゲージメント測定に特化したツールは、ES向上のための具体的な課題発見と改善アクションの実行を強力にサポートします。「モチベーションクラウド」は、独自の組織診断サーベイを用いて、企業の組織状態をエンゲージメントスコアという指標で可視化します。他社比較や部署別比較によって自社の強みと弱みを客観的に把握し、専門コンサルタントの支援を受けながら改善サイクルを回せる点が大きな特徴です。一方、「Talent Palette(タレントパレット)」は、サーベイ機能に加え、勤怠情報や人事評価など様々なデータを統合的に分析できるピープルアナリティクスに強みを持っています。ハイパフォーマーの行動特性分析や離職予兆の検知など、データに基づいた科学的な人事戦略の立案を可能にし、個々の従業員に最適化されたアプローチを実現します。
SlackやMicrosoft Teamsなどのコミュニケーション基盤
従業員満足度を左右する大きな要因の一つが、社内のコミュニケーションの質です。特にリモートワークやハイブリッドワークが普及する現代において、ビジネスチャットツールは不可欠なコミュニケーション基盤となっています。「Slack」や「Microsoft Teams」といったツールは、単なる連絡手段にとどまりません。部署やプロジェクトごとのチャンネルで迅速な情報共有を促すだけでなく、雑談や感謝を伝え合うための専用チャンネルを設けることで、組織の心理的安全性を高める効果も期待できます。これにより、部門の垣根を越えたコラボレーションが活性化し、一体感が醸成されます。ツールの導入と合わせて、ポジティブなコミュニケーションを促進するルールや文化を育むことが、ES向上を成功させる鍵となります。
ケーススタディ

ES(従業員満足)向上の取り組みは、理論だけでなく具体的な実践を通じてこそ真価を発揮します。ここでは、異なる業種の企業がどのようにES向上に取り組み、組織課題を解決したのか、具体的なケーススタディをご紹介します。自社の状況と照らし合わせながら、施策立案のヒントとしてご活用ください。
製造業の風土改革と組織開発
長年のトップダウン文化が根付き、若手社員の離職率の高さに悩んでいたある中堅製造業の事例です。同社は、ES向上の鍵が現場の従業員一人ひとりの「働きがい」と「経営への参画意識」にあると考え、大規模な風土改革に着手しました。まず、経営層が主導し、全社員参加型のワークショップを通じてミッション・ビジョンを再策定。策定された理念は、社内報や工場内のサイネージ、朝礼などを通じて繰り返し発信され、浸透が図られました。同時に、形骸化していた目安箱制度をデジタル化し、現場からの改善提案が直接経営層に届き、フィードバックされる仕組みを構築。さらに、管理職向けに1on1ミーティングやコーチングの研修を徹底し、指示命令型から対話支援型のマネジメントへの転換を促しました。これらの取り組みの結果、従業員エンゲージメントサーベイのスコアは大幅に向上し、特に「会社の将来性への共感」や「上司からの支援」といった項目で顕著な改善が見られ、離職率の低下と生産性の向上に繋がりました。
IT企業のピープルアナリティクス活用
エンジニアの採用競争が激化し、優秀な人材のリテンション(定着)が経営課題となっていたIT企業の事例です。この企業では、感覚的な人事施策から脱却し、データに基づいた意思決定を行うため、ピープルアナリティクスの本格導入を決定しました。まず、勤怠データ、エンゲージメントサーベイの結果、1on1の実施記録、社内チャットツールの利用動向といった複数のデータを統合・分析する基盤を構築。この基盤を用いて、過去の離職者の行動パターン(特定サーベイ項目のスコア低下、残業時間の急増、社内コミュニケーション量の減少など)を分析し、離職の予兆を早期に検知するモデルを開発しました。このモデルによってアラートが上がった従業員に対しては、上司や人事が迅速に面談を設定し、課題のヒアリングやケアを行う体制を整備。結果として、客観的データに基づく的確な介入が可能となり、エンジニアの離職率を前年比で15%削減することに成功しました。また、ハイパフォーマーの行動特性分析も行い、その結果を育成プログラムや採用要件に反映させることで、組織全体のパフォーマンス向上にも貢献しています。
まとめ

ES(従業員満足)は、もはや単なる福利厚生の枠を超え、企業の持続的な成長を支える経営戦略そのものです。従業員の満足度が顧客満足(CS)や業績に直結し、優秀な人材の獲得・定着に不可欠であることは、本記事で解説した通りです。ES向上のためには、ミッションの浸透、公正な人事制度、柔軟な働き方の提供といった多角的なアプローチが求められます。重要なのは、これらの施策を場当たり的に行うのではなく、サーベイによって組織の状態を正確に可視化し、データに基づいて改善サイクルを回し続けることです。SmartHRやカオナビのようなHRテックを活用することも、その強力な推進力となるでしょう。従業員一人ひとりが働きがいを感じ、心理的安全性の高い環境で能力を最大限に発揮できる組織を築くことこそが、変化の激しい時代を勝ち抜くための最も確実な投資と言えます。