社員にとっても企業にとってもメリットが大きい「食事補助」ですが、制度を導入するうえで気になるのが“非課税の範囲”と“どこまで負担できるか”という点です。1日あたりの金額や月額計算の仕方、社内規程のつくり方など、実際に制度を始める前に確認しておきたいことは意外と多くあります。
この記事では、よく聞く「1日500円ルール」の考え方や、企業が気をつけるべき運用ルール、税務署とのやり取りで注意したいポイントなどを、実務目線でわかりやすく整理しています。
ムダな手戻りを避けながら、安心して導入できるようにするためのヒントが詰まった内容です。
Contents
食事補助の基礎知識

食事補助は、企業が従業員の食生活を支援する代表的な福利厚生制度です。制度設計を誤ると「給与」とみなされ課税対象になるため、税制上の非課税要件と上限額を正しく理解することが不可欠です。本章では、食事補助の代表的な提供方法と、非課税で運用するための法的枠組みを整理します。
食事補助の種類と提供方法
食事補助は大きく分けて「現物支給型」「食券・プリペイドカード型」「現金給与型」の三つがあります。制度ごとに税務処理や運用負担が異なるため、自社の規模や業態に合わせた選択が求められます。
現物支給型(社員食堂方式)
企業が社員食堂を設置し、調理済みの食事を従業員に提供する形式です。従業員が負担する金額が実際の食事原価の50%以上、または会社負担額が月3,500円以下のいずれかを満たすときは所得税・住民税ともに非課税となります。社員食堂を設けることで、職場滞在時間の短縮やコミュニケーション活性化といった副次的メリットも期待できます。
食券・プリペイドカード方式
社外の飲食店やコンビニエンスストアで利用できるチケット、ICカード、スマートフォンアプリなどを通じて食事を提供するタイプです。税務上は「現物支給」とみなされ、会社負担額が1食500円以下かつ従業員負担が半額以上であれば非課税となります。導入コストが比較的低く、多様な店舗で使える利便性の高さが特徴です。
現金給与型(手当支給方式)
食事手当として一定額を現金で支給する方式は、従業員の自由度が高い一方、現金支給は原則として全額「給与」として課税されます。所得税・住民税だけでなく社会保険料の算定基礎にも含まれるため、実質的なコスト増につながりやすい点に注意が必要です。
福利厚生の非課税制度とは
福利厚生費は「従業員の職務遂行に必要な費用」と位置づけられると、所得税法上の給与課税が免除されます。食事補助の場合、金額要件と従業員負担割合を満たすかどうかが最大のポイントで、制度設計に当たっては所得税基本通達36-27を中心とする国税庁のガイドラインを参照する必要があります。
所得税法における取り扱い
非課税の判定基準は「従業員負担50%以上」または「会社負担月3,500円以下(食券等は1食500円以下)」です。これらの要件を逸脱すると、会社負担分が給与課税の対象となり、従業員は源泉所得税を負担することになります。基準額は物価動向に応じて改定される可能性があるため、毎年の税制改正大綱を確認することが欠かせません。
社会保険料への影響
社会保険料の算定基礎は「現金で受け取るすべての報酬」を対象とします。したがって、現物支給や食券方式で非課税要件を満たしている限り社会保険料にも影響しません。一方、現金給与型の食事手当は標準報酬月額に含まれ、企業・従業員双方の保険料負担が増加するため、制度選定時に留意が必要です。
非課税となる条件と上限額の詳細

食事補助を福利厚生費として非課税処理するためには、税法上定められた要件を満たす必要があります。ここでは、支給方法・金額基準・運用管理の3つの観点から詳細を解説します。
個別給付型と現物支給型の比較
食事補助は大きく「個別給付型」と「現物支給型」に分かれます。いずれも非課税措置を受けられますが、適用要件や会計処理が異なるため、制度設計時には両者の違いを押さえることが重要です。
個別給付型(食事手当・クーポン)の特徴
個別給付型は社員に食事手当を現金で支給したり、チケットレストランなどのクーポンを配付する方式です。会社負担額が1食あたり500円以下で、かつ従業員が半額以上を自己負担することが非課税要件となります。現金支給の場合は給与明細に「非課税食事手当」欄を設け、源泉徴収対象外である旨を明記する必要があります。
現物支給型(社員食堂・仕出し弁当)の特徴
現物支給型は社員食堂やケータリングを利用して実物の食事を提供する方式で、会社が直接費用を負担します。非課税要件は「従業員の自己負担が1食当たりの価額の半分以上」かつ「会社負担部分が500円以下」です。電子マネー決済などキャッシュレスでの自己負担も認められますが、領収データを保存しておくことが求められます。
課税・非課税判定のポイント
判定基準は「会社負担額」と「従業員負担割合」の2軸で決まります。いずれかが要件を満たさない場合、会社負担分全額が給与所得として課税され、源泉徴収の対象となるため、福利厚生費計上ができなくなります。
1日500円まで非課税の仕組み
非課税枠は所得税基本通達36‐27で1食あたり会社負担額500円以下と規定されています。ここでは500円基準の根拠と実務的な運用方法を整理します。
所得税基本通達36−27の概要
同通達は「事業主が食事を支給した場合で、従業員の自己負担額がその価額の半分以上であり、かつ会社負担額が1食500円以下なら非課税」と明記。通達は国税庁が公表しており、税務調査でも最重要の判断基準となります。
500円を超えた部分の課税方法
会社負担額が500円を超えた場合、超過部分全額が給与課税の対象になります。たとえば会社負担700円・従業員負担400円の弁当の場合、200円が給与所得となり源泉所得税を控除する必要があります。
500円基準を満たす実務上の管理方法
ICカード決済や食券システムを導入し、日次・月次で会社負担額を自動集計することで500円基準を継続的にチェックできます。外部サービスを利用する際は、サービス提供事業者の帳票に「会社負担額」「従業員負担額」が区分記載されているかを確認しましょう。
月額上限に関する注意点
1食500円の非課税枠は日額基準ですが、経理処理では月額換算も不可欠です。月間の所定労働日数やテレワーク勤務などに応じて変動するため、月額上限の算出方法と例外ケースを理解しておく必要があります。
月平均所定労働日数×500円で算出
月額上限は「月間の所定労働日数×500円」が目安になります。例えば所定労働日数が20日の場合、会社負担分の非課税限度額は10,000円です。年末調整時にもこの月額換算を用いて過不足を確認します。
変則勤務・テレワーク時の取扱い
シフト勤務や在宅勤務がある場合は実際に勤務した日数で再計算します。在宅勤務日に食事補助を支給する場合、500円基準を満たしても業務関連性が薄いと判断されると課税対象になる恐れがあるため、社内規定に明示しておきます。
誤徴税・過不足清算の防止策
食事補助の集計ミスは所得税の誤徴収・過少徴収につながります。給与計算システムと食事管理システムを連携し、会社負担額が自動反映される仕組みを構築することで課税・非課税の判定誤りを削減できます。年度末には必ず帳簿とシステムデータを突合し、過不足があれば源泉徴収票を訂正します。
具体例でわかる食事補助の上限額

大企業と中小企業での導入事例
CASE1 大手メーカーの社員食堂モデル
トヨタ自動車のような大規模製造業では、敷地内に社員食堂を設置し、1食あたりの原価を600円と設定しています。従業員は半額以上にあたる380円を支払い、会社負担は220円です。月20営業日利用した場合の会社負担総額は4,400円となり、非課税上限の3,500円を超える900円分は給与課税対象として源泉徴収されています。超過分を生じさせないために、メニューの見直しや利用回数の上限制限を行うケースもあります。
CASE2 ベンチャー企業の外部サービス利用モデル
首都圏のITベンチャーでは、社員食堂を持たずにチケットレストランなどの外部食事補助サービスを採用しています。1枚820円の食事券を毎月20枚配布し、従業員が420円、会社が400円を負担。会社負担は月8,000円となり非課税枠を超えるため、1日当たり200円・月4,000円を会社負担上限と再設計し、超過分を従業員負担へ切り替えることで税務リスクを回避しました。
CASE3 地方中小製造業の弁当補助モデル
従業員数80名の部品加工会社では、仕出し弁当の原価を540円と設定。従業員が300円、会社が240円を負担し、月22日利用で会社負担5,280円となるため、月3,500円を超える1,780円分は給与として課税処理しています。経理の手間削減のため、会社負担を月3,500円で打ち切り、超過は立替精算に移行する方向で検討中です。
業種別の上限設定例
IT業
裁量労働制やリモートワークが多く、社内食堂の利用頻度が低いため残業食事手当(1食500円非課税)を中心に設計。昼食はチケットレストランを利用し、会社負担を月3,500円に合わせて20営業日×175円に設定しています。
製造業
24時間稼働の交替制現場では夜勤者に夜食を提供。社員食堂方式を取りながら、従業員が原価の50%以上を負担し、会社負担は月3,500円までに抑制。深夜手当とは別に食事補助を付ける場合でも、超過分が課税対象になる点を就業規則に明記しています。
小売業
店舗勤務者は外出が難しいため、コンビニ弁当を一括購入。原価480円のうち従業員負担240円、会社負担240円で1日あたりの会社負担を240円に固定。繁忙期は残業食事手当500円を別途支給し、合計で非課税枠を超えないよう管理しています。
医療・福祉
病院や介護施設では、栄養バランスを考慮した院内食を提供。原価650円に対し従業員負担350円、会社負担300円で月20日利用=会社負担6,000円になるため、日勤のみ従業員へは現金補填ではなく食券を減らす方式で3,500円以内に調整。夜勤者の夜食については、1食500円の残業食事手当を活用し非課税処理しています。
食事補助制度導入のメリットとデメリット

企業側のメリット
採用競争力の向上
食事補助は「福利厚生が充実している会社」というブランディングに直結し、採用市場での訴求力を高める。求人票に「社員食堂利用可」「チケットレストラン支給」などの記載があるだけで、応募率が向上した事例も多い。とりわけ20〜30代の若手人材は報酬額より福利厚生を重視する傾向があり、人材獲得コストの削減にも寄与する。
従業員エンゲージメントの向上
ランチ補助や夕食代支給は、長時間労働やリモートワークで薄れがちな組織とのつながりを強化する。社内アンケートでは、食事補助を利用する従業員ほど「会社に貢献したい」という意識が高いという結果が報告されている。結果として離職率の低下、生産性の向上が期待できる。
社会保険料・税負担の軽減
給与として現金で支給すると課税・社保対象になるが、国税庁通達に沿った食事補助は1日あたり500円まで非課税扱いとなる。課税所得を抑えながら実質賃金を引き上げられるため、企業も従業員も負担を抑制できる。結果としてトータル人件費の最適化が可能だ。
従業員側のメリット
実質的な可処分所得の増加
同額の現金給与を受け取る場合と比較し、非課税枠内の食事補助は所得税・住民税・社会保険料が発生しない。例えば月20営業日利用で最大1万円相当の非課税メリットを享受でき、手取りベースでの可処分所得が増える。
健康維持・ワークライフバランスの改善
栄養バランスの取れた社食や提携レストランの利用は、外食の偏りやコンビニ食の多用を防ぐ。健康診断結果の改善やメンタルヘルス不調の減少が報告されており、医療費削減や欠勤率低下にもつながる。
職場コミュニケーションの活性化
共通の食事スペースやランチミーティングは部署横断的な交流を生み、新規プロジェクトのアイデア創出やナレッジ共有を促進する。「昼食=雑談タイム」を制度として後押しすることでチームビルディングが加速し、帰属意識を高める。
税務上の注意点
非課税要件の遵守
1日500円超の補助部分は給与課税対象となるため、企業は実費負担額の記録と利用回数の管理が必須。社内規程で補助額・対象者・提供方法を明文化し、第三者が確認できる形で運用しなければ非課税は認められない。
給与課税リスク
現金支給型や電子マネー型は「用途が食事に限定されていない」と判断されると全額課税される恐れがある。国税庁のFAQでは「飲料・食料の区分」「使用場所の限定」など具体的なガイドラインが提示されており、実態がルール通りか定期的にチェックする体制が必要。
インボイス制度への対応
2023年10月開始の適格請求書等保存方式により、食事補助に係る消費税仕入控除の要件が厳格化された。社食運営会社やチケット発行事業者が適格請求書発行事業者かを確認し、請求書・レシートを電子帳簿保存法に沿って保管することが求められる。適切な対応を怠ると追徴課税リスクが高まる。
導入手順と運用ポイント

事前準備:現状分析とニーズ把握
制度導入の第一歩は、自社の現状と従業員のニーズを正確に把握することです。部門ごとの勤務時間帯や勤務地の分散状況を整理し、食事環境の課題を洗い出します。
従業員アンケートの実施
オンラインアンケートを用いて希望する補助額、利用したい店舗形態、アレルギー情報などを収集します。回答データは部門別・職種別にクロス集計し、優先度の高い要望を抽出します。
コストシミュレーション
1日500円・月20日利用を想定し、利用率30%・50%・70%の3パターンで年間予算を試算します。社会保険料や源泉所得税への影響も含めてシミュレーションし、経営陣へ提示できる根拠を整えます。
社内規程の策定
就業規則、福利厚生規程、旅費規程などに食事補助の条項を追加し、非課税要件を逸脱しない文章を作成します。「支給額は1日あたり500円を上限とし、従業員負担が半額以上となるよう会社負担を設定する」旨を明記することで税務リスクを回避します。
就業規則への明記
常時10人以上の労働者がいる事業場では就業規則への届出が義務付けられます。労使協定の締結状況も併せて確認し、労働基準監督署への届出漏れを防ぎます。
非課税要件を満たす条項作成
会社負担額・従業員負担額の割合、支給方法、現物支給か現金支給かを具体的に規定します。あいまいな表現は税務署からの指摘対象となるため避けましょう。
税務署への届出と関係書類の整備
食事補助を給与課税対象外とするには、所轄税務署への届出が必須です。届出書を提出しないと会社負担分が給与として課税される恐れがあります。
「給与所得者に対する食事の支給に係る届出書」の提出
届出書は原本1部を提出し、控え1部を保管します。届出期限は制度開始日の前日までが望ましく、遅延すると初月分が課税対象となる可能性があります。
証憑書類の保管ルール
外部サービスの請求書、領収書、利用明細を7年間保存する社内ルールを設定します。電子帳簿保存法に対応したクラウドストレージを活用すると監査対応が容易になります。
提供方法の選定と運用体制構築
食堂設置が難しい企業でも、外部フードサービスやデジタルチケットを活用すれば制度導入が可能です。各方式のメリット・デメリットを比較し、自社に最適なモデルを選定します。
現物支給型:社食・外部提携カフェテリア方式
社員食堂を持つ場合は運営コストと利用率のバランスが鍵です。外部カフェテリア方式なら設置スペース不要で、都市部の多拠点勤務にも対応できます。
個別給付型:チケット・ICカード方式
紙チケットは管理負担が大きいため、ICカードやQRコード決済型の導入が主流です。利用データをCSVで取得でき、会計連携が簡便になります。
デジタル食事補助サービスの活用
チケットレストランやバヌーシェのようなクラウド型サービスを採用すると、1日500円の非課税判定が自動化されます。API連携により勤怠システムとのデータ二重入力を防げます。
システム連携と支給フロー
食事補助データを給与システムへ取り込み、従業員負担分を給与天引きするフローを確立します。自動連携により「会社負担=非課税」「従業員負担=後払い」を明確化し、誤課税を防止します。
勤怠・給与ソフトとの統合
弥生給与やマネーフォワードクラウド給与など主要ソフトとCSVまたはAPIで連携し、月次処理を自動化します。連携テストは本稼働1か月前には完了させます。
500円ルールの自動判定
日次データを取り込み、会社負担が500円を超える場合は当該超過額を「課税対象」として仕訳を切るロジックを実装します。テスト運用で境界値エラーがないか確認します。
導入後のモニタリングと改善
制度は導入して終わりではありません。利用率、コスト、従業員満足度を四半期ごとに評価し、必要に応じて見直します。
利用率・満足度の定点観測
ダッシュボードで利用率を可視化し、目標70%に届かない場合は補助対象店舗の拡充やPRキャンペーンを実施します。匿名アンケートで味・メニュー・価格帯へのフィードバックを集めます。
税務調査に備えた内部監査
年1回、経理部主導で社内監査を行い、非課税要件の充足状況を確認します。指摘事項は改善計画書を作成し、次年度の運用に反映させます。
上限額の見直しとアップデート
食材価格や最低賃金の上昇に応じて従業員負担が重くならないよう、会社負担額を調整します。ただし1日500円の非課税上限を超えると給与課税になるため、制度改定時にはシステム設定も忘れず変更します。
まとめ

食事補助を福利厚生として非課税で運用するには、①1か月の勤務日すべてを対象に食事を提供する、②従業員負担が1食当たり50%以上かつ企業負担が500円以下、という二つの条件を満たすことが必須です。個別給付型の金券や現物支給型の社食・仕出し弁当でも条件を守れば税務上の優遇が受けられますが、超過分は給与課税となるため注意が必要です。導入時は就業規則への明記、税務署への届出、運用体制の整備を行い、制度の公平性と証憑保存を徹底することで、企業は採用力向上や従業員の定着率改善、従業員は実質的な手取り増という双方のメリットを最大化できます。さらに、外部の仕出しサービスを利用する場合は請求書に対象人数と金額を明記し、500円を超える部分を従業員に徴収することで、税務調査時のリスクを低減できます。食事補助は少額でも従業員満足度に直結するため、制度の見直しを後回しにせず、最新の通達や判例を確認しながら柔軟に更新していくことが持続的な人材投資につながります。