交通費が課税されるケースと非課税となる通勤手当の限度額、出張旅費精算の注意点まで、制度の根拠条文や最新改正を踏まえて税務・給与担当者が取るべき実務対応を網羅的に解説します。本記事を読めば、源泉徴収票の記載方法やマイカー通勤分の計算式まで“グレーゾーン”を残さず理解でき、社内規程の見直しと税務リスク低減のための結論が得られます。さらに、課税漏れや過大支給を防ぐチェックリストも提供するので、経理・人事双方の実務負担を軽減できます。
Contents
交通費課税の基本ルール

給与所得における交通費の位置付け
交通費は従業員に支給される金銭であるため、原則として所得税法上の給与所得に該当します。しかし、業務遂行に不可欠な費用を会社が負担するという性質も併せ持つことから、一定の条件下では非課税扱いが認められています。ここでは、交通費が「給与」として課税されるのか、それとも「実費弁償」として非課税になるのかを判定する基準を押さえておきましょう。
法令・通達の根拠
交通費が非課税とされる根拠は、所得税法第9条第1項第5号及び同法施行令第20条に定められた通勤手当の非課税限度額、並びに国税庁の「給与所得に対する源泉徴収のしかた」などの通達です。これらの規定により、合理的な経済活動に必要な範囲の交通費は課税対象から除外されることが明確化されています。
企業が採用する支給形態
企業が従業員へ交通費を支給する方法は、定期券代などを毎月決まった額で支給する定額支給制度と、実際にかかった金額を申請に基づき精算する実費精算制度の大きく二つに分かれます。制度の違いによって課税・非課税の判定が変わるわけではありませんが、証憑管理や支給額の妥当性を税務署に説明できる体制が重要となります。
課税対象となる交通費と非課税となる交通費の違い
交通費には「通勤手当」「出張旅費」「営業交通費」など複数の区分があり、それぞれ課税関係が異なります。まず押さえるべきは通勤手当として支給される交通費の取り扱いで、こちらは非課税限度額内なら課税されません。一方、限度額を超える部分や私的利用を含む支給は給与課税の対象です。
課税対象となるケース
次のような場合、支給額の全部または一部が課税対象になります。
- 非課税限度額(月15万円)を超える通勤手当
- 定期券購入後に余った区間を私用で使用し、その分を会社負担とする場合
- タクシー利用など合理性が認められない高額交通費を会社が負担する場合
非課税が認められるケース
以下に該当する交通費は、証憑を保管し合理性を証明できれば非課税となります。
- 公共交通機関を利用した通常の通勤手当で、限度額内に収まる範囲
- 業務命令による出張・外出に伴う交通費で、出張旅費規程に基づき精算されたもの
- マイカー通勤者に対するガソリン代や駐車場代で、距離に応じ国税庁の定める一定額以内
なお、在宅勤務が浸透する中で「在宅勤務手当」や「通信費」の扱いが問題になるケースもありますが、それらは交通費とは別途判断されるため、同じ非課税枠を流用することはできません。
このように、交通費の課税・非課税を分けるポイントは合理性・限度額・証憑管理の三つです。会社は就業規則や旅費規程を整備し、従業員も申請内容を明確にすることで、課税漏れや過大申告のリスクを低減できます。
非課税となる通勤手当の上限と計算方法

通勤手当は、従業員が⾃宅から勤務先まで通勤するために要する費⽤を補填する名⽬で⽀給されるものです。所得税法上、⼀定額までは課税所得に含まれず「非課税通勤⼿当」として扱われます。ここでは最新の税制を踏まえて、上限額と算定プロセスを詳細に解説します。
非課税限度額の具体的な算定方法
通勤手当が非課税となる限度額は、公共交通機関を利用する場合と自家用車・自転車等を利用する場合で異なるため、まずは計算ロジックを切り分けることが重要です。
所得税法および通達で定められた月額上限
公共交通機関利用者については、月額150,000円が非課税限度額です。これは令和2年度税制改正により引き上げられ、現在も適用されています。給与計算システム上は「定期代」「ICカード実績」のいずれも、この上限を超えた部分を課税対象として処理します。
定期券購入を前提とした計算手順
① 勤務日数・就業形態(フルタイム・シフト制・テレワーク併用)を確認
② 最も経済的かつ合理的な経路での定期券6か月分を取得
③ 6で割って月額に換算し、150,000円と比較
④ 超過額があれば「課税通勤手当」として給与所得に上乗せして源泉徴収
公共交通機関利用時の取り扱い
電車・バス・モノレール・船舶・航空機など公共交通機関を利用する社員に対しては、以下のような運用が推奨されます。
定期券・回数券・ICカード利用額の判定
定期券は金額が明確で経路も固定されるため最も管理しやすい方法です。ICカードのチャージ残高精算を採用する場合は、客観的な利用履歴(CSVデータ等)の保存が必要です。領収書や利用明細がない乗車は課税リスクがあるため、社内規程で実費精算の方法を定義しておきます。
月をまたぐ定期期間の按分
例えば4月15日〜10月14日の6か月定期を購入した場合、給与システムでは4月分の給与に「4/15〜4/30までの16日分」を按分し、5〜9月分を満額登録、10月分に「10/1〜10/14までの14日分」を登録するのが一般的です。これにより、源泉徴収票の支払額との整合性が保たれます。
マイカー通勤や自転車通勤のケース
自家用車・オートバイ・自転車で通勤する従業員については、片道通勤距離に応じた非課税限度額が国税庁通達(令和3年最終改正)で定められています。
距離別非課税額早見表(⽉額)
2km未満 :非課税対象外(課税)
2km以上10km未満:4,200円
10km以上15km未満:7,100円
15km以上25km未満:12,900円
25km以上35km未満:18,700円
35km以上45km未満:24,400円
45km以上 :31,600円
ガソリン代・駐車場代の取り扱い
距離に応じた非課税額にはガソリン代・オイル代・駐車場代の補填が含まれると解釈されるため、別途支給した場合は「課税通勤手当」として取り扱います。社用車貸与で会社が全額負担する場合でも、私的利用が混在すると課税対象となることがあるため、走行距離記録簿を保存して業務使用分を証明します。
2km未満の短距離通勤者
徒歩・自転車などで片道2km未満の従業員に手当を支給すると全額課税となります。福利厚生目的で定額を支給する場合も、給与所得として源泉徴収を行う必要があります。
令和改正による影響と対応策
距離区分の金額自体は令和改正で変更されていませんが、ハイブリッド勤務の普及に伴い、実費精算方式への見直しを行う企業が増えています。距離別の定額支給を継続する場合でも、週1〜2回出社などのケースでは合理性が問われるため、労務・税務両面での規程見直しが不可欠です。
業務目的の交通費精算と課税考慮

実費精算制度と定額支給制度の比較
実費精算制度とは
実費精算制度では、社員が立替えた交通費を領収書や乗車券の控えなどの証憑に基づき、会社がその都度全額払い戻す方式を採用します。旅費交通費として会社の損金に算入される一方、従業員は実費額を受け取るだけなので所得税は課されません。
定額支給制度とは
距離や職務内容を基準に月額○円といった形で交通費を定額支給する方法です。あくまで「会社の経費補填」という名目ですが、実際に要した費用を超える部分は給与として課税対象となります。逆に実費を下回る金額であれば源泉徴収は不要です。
課税関係の違い
実費精算は証憑がそろっていれば全面的に非課税ですが、定額支給は非課税・課税の判定を行うために通勤定期券代やマイカー燃料費の実態把握が欠かせません。定額支給額の設定を誤ると、税務調査で「給与」とみなされ追加徴税を受けるリスクがあります。
出張旅費規程に沿った精算方法
旅費規程の必要要件
出張時の交通費・宿泊費・日当を非課税で処理するには、社内で明文化された旅費規程が不可欠です。国税庁の通達では「支給基準」「支給方法」「支給額」が合理的かつ明確であることを求めています。
日当・宿泊費の課税可否
交通費そのものは領収書精算が原則ですが、日当や宿泊費は規程に定めた定額支給が可能です。社会通念を超える高額な日当を設定すると、超過分は給与所得として課税されるため注意が必要です。
高額支給時のリスクと対処
新幹線グリーン車や航空機のビジネスクラス利用など高額旅費を認める場合には、業務上の必要性を説明できる記録を残しましょう。合理性を欠く支出は役員賞与認定や損金否認の対象となり得ます。
領収書未提出や精算漏れのリスク
領収書保存義務と電子帳簿保存法
現行の電子帳簿保存法では、旅費交通費の証憑をスキャン保存する場合でもタイムスタンプ付与・検索要件の充足が必須です。紙のまま保存する場合は原本を7年間保管しなければなりません。
精算漏れが発覚した場合の処理
過年度に未精算の交通費が見つかった場合、当該年度の経費として計上できるのは期末までに費用の発生が確定していたケースに限られます。税務上は前期損益修正や源泉徴収の追徴が必要になることもあります。
内部統制とシステム化
申請ミスや領収書紛失を防ぐために、ワークフローシステムやICカード連携による自動読取を導入する企業が増えています。ガバナンス強化と業務効率化を両立させる仕組みが、税務リスク低減につながります。
源泉徴収と年末調整での交通費の扱い

源泉徴収票への記載例
通勤手当が非課税となる範囲(公共交通機関利用で月額15万円まで、マイカー等の場合は距離に応じた定額)に収まっている場合、その金額は給与所得の「支払金額」欄には含めず、課税対象外として処理します。したがって、同欄に反映されるのは課税対象となる交通費のみです。
支払金額欄と非課税通勤手当
月額定期券代が15万円以内なら非課税であるため、支払金額欄には計上しません。例えば「給与支給額30,000,00円・通勤手当20,000円(全額非課税)」の場合、支払金額欄は3,000,000円となり、通勤手当20,000円は含めないことがポイントです。
給与所得控除後の金額欄との関係
支払金額欄に含めなかった通勤手当は、当然ながら「給与所得控除後の金額」「所得控除の額の合計額」の計算ベースにも影響しません。これにより所得税・住民税の課税標準から完全に除外されます。
摘要欄の記載ポイント
国税庁の様式例では「通勤手当●円(非課税)」と摘要欄へ明記することが推奨されています。課税・非課税を一目で確認できるため、税務調査や従業員からの問い合わせ対応がスムーズになります。
年末調整での過不足精算方法
年間を通じて通勤経路が変わったり、定期代を先払いして途中退職した場合などは過不足調整が必要です。年末または退職時に再計算し、課税・非課税の判定をやり直します。
月次での過払い・不足の確認手順
①従業員から提出された通勤届を基に毎月の非課税限度額を算定
②給与計算時に実際支給した金額と比較し、超過があれば課税扱い、不足があれば翌月補填
③年末調整前に1年分を集計し、過不足を確定
追加徴収・還付の具体例
たとえば4月~8月までの定期代が月18万円であった場合、非課税限度額超過分(3万円×5か月=15万円)については課税対象となり、年末調整時に追加徴収します。逆に一部月で控除漏れがあった場合は還付処理を行います。
社会保険料・住民税への波及効果
非課税通勤手当は社会保険料・住民税の基礎となる標準報酬月額や前年所得金額にも含まれません。そのため、年末調整で課税交通費が増減すると、翌年度の住民税額や賞与時の社会保険料率に影響が及ぶケースがあります。
最新制度改正と今後の注目ポイント

令和改正で変わった非課税限度額
令和2年度税制改正では、通勤手当の非課税限度額が一部見直され、公共交通機関を利用した場合の月額上限15万円は据え置かれた一方、マイカー・自転車通勤者向けの距離区分ごとの非課税限度額が最大2割程度引き上げられました。これにより、例えば「片道15km超25km以下」の上限は1万1,300円から1万2,900円へ改定されています。
公共交通機関に係る改定ポイント
定期券代の高騰を受けても月15万円を超える部分は原則課税対象というルールは維持されました。ただし、ICカード型定期券を従業員が個人購入し、会社が後日精算するケースでも「合理的な経路・経済的な運賃」に該当すれば非課税とする旨が通達に明記され、キャッシュレス精算の実務がより明確化されています。
マイカー・自転車通勤に係る改定ポイント
ガソリン価格高騰や働き方多様化を踏まえ、距離区分ごとに月額900円〜2,000円の上乗せが行われました。例えば「片道45km以上」の非課税限度額は2万4,500円から2万8,000円へ拡大。電気自動車・ハイブリッド車でも同額が適用されますが、「ガソリン代の実費精算」と「距離区分による定額手当」を併用すると過大支給となる恐れがあるため、社内規程でどちらかに統一する必要があります。
定期券購入補助の取り扱い変更
「半年定期を会社が一括購入し毎月分割控除する方式」について、非課税限度額の判定は“支給時点での月換算”で行うことが改めて確認されました。支給額を誤ると源泉徴収票の記載誤りにつながるため、年末調整での過不足精算フローをDX化し、電子帳簿保存法の要件を満たす形で証憑保管することが推奨されています。
今後の税制改正動向と備え
政府が掲げる「脱炭素社会」や「働き方改革」の加速を背景に、通勤手当の課税非課税ルールも数年以内に再度アップデートされる可能性が高まっています。
グリーン化・脱炭素と通勤手当
環境負荷の小さい電気自動車や公共交通機関利用を促す観点から、CO₂排出係数に応じたインセンティブ型の非課税枠が検討課題に挙がっています。将来的には「エコ通勤認証」を取得した企業のみ拡充措置を受けられる制度設計も想定されるため、社用車のEV化や自転車通勤促進策を早期に整備しておくと優位に働く可能性があります。
テレワーク普及に伴う制度再設計
出社頻度が減少する中で「実際に出社した日数に応じて通勤手当を日割り支給する方式」の導入が進んでいます。国税庁は「定期券を保有しないワークスタイルでも、業務上必要かつ合理的な経路分は非課税」とするガイドラインを示す方向で議論しており、企業は勤怠管理システムの改修やモバイルSuica連携を準備しておくことが求められます。
企業が今から取り組むべき実務対応
①社内旅費・通勤手当規程のアップデート、②電子帳簿保存法対応の証憑デジタル化、③従業員へのわかりやすいガイドライン提示――の3点を押さえることで、今後の改正時にも迅速に対応できます。また、源泉徴収・年末調整ソフトをクラウド化しAPI連携で交通費データを自動取込できる体制を整えれば、人的ミス削減と税務リスク低減の両立が図れます。
まとめ

交通費は原則として給与所得に含まれるため課税対象ですが、所得税法施行令に定める通勤手当の非課税限度額内で支給すれば税負担は発生しません。公共交通機関なら月15万円、マイカー・自転車通勤なら距離区分ごとの定額が上限です。これを超えて定期代やガソリン代を支給した場合、その超過分は給与として源泉徴収し、年末調整で精算する必要があります。また業務出張の旅費は就業規則や旅費規程に基づき実費精算すれば非課税ですが、定額支給や領収書未提出があると課税リスクが高まります。令和元年の改正で限度額が引き上げられた点を踏まえ、企業は規程の更新と証憑管理を徹底し、従業員は支給方法を把握しておくことが重要です。今後の税制改正では環境配慮型通勤手当のインセンティブ拡充も検討されているため、最新情報を注視しフレキシブルに制度を見直す姿勢が求められます。