女性管理職の増加は、現代社会における重要な課題です。政府も目標を掲げ、企業も積極的に取り組むべきテーマとなっています。しかし、取り組み方法やメリットが分からず、二の足を踏んでいる企業も多いのではないでしょうか。この記事では、日本における女性管理職の現状や、企業が女性管理職を増やすための具体的な方法、そしてそのメリットについて詳しく解説します。女性管理職を増やすことで、企業は優秀な人材の確保、多様な視点の活用、企業イメージの向上など、多くのメリットを得ることができます。また、ESG投資の観点からも注目されており、投資家からの評価向上にも繋がります。この記事を読むことで、女性管理職を増やすための具体的な施策を理解し、自社への導入を検討する上で必要な情報を得ることができます。結論として、女性管理職の増加は企業にとって大きなメリットをもたらし、持続的な成長に不可欠な要素と言えるでしょう。
Contents
女性管理職の日本の現状
日本では、女性管理職の割合が依然として低い水準にとどまっており、国際的に見ても遅れを取っているのが現状です。男女共同参画社会の実現に向けて、政府や企業は様々な取り組みを進めていますが、依然として課題は山積しています。この章では、日本の女性管理職の現状について、統計データや政府目標などを交えながら詳しく解説していきます。
日本の女性管理職の平均割合
内閣府男女共同参画局が発表した令和4年度版男女共同参画白書によると、日本の女性管理職の割合は諸外国と比較して低い水準にあります。令和3年度の日本の課長相当職以上の女性管理職比率は13.2%に留まっており、主要7カ国(G7)の平均値と比較しても低い数値です。業種別に見ても、女性管理職の割合は大きく異なっており、卸売業・小売業では比較的高い一方、建設業や製造業では低い傾向が見られます。
国 | 女性管理職比率(%) |
---|---|
日本 | 13.2 |
アメリカ | 41.1 |
イギリス | 39.6 |
ドイツ | 29.2 |
フランス | 45.3 |
イタリア | 22.5 |
カナダ | 39.9 |
(出典:内閣府男女共同参画局「令和4年度版 男女共同参画白書」)
また、企業規模別に見ると、企業規模が大きいほど女性管理職の割合が高い傾向があります。これは、大企業の方が経営資源が豊富で、女性管理職育成のための研修制度や、仕事と家庭の両立支援制度などが充実していることが要因の一つと考えられます。
日本政府が掲げる女性管理職に関する目標
日本政府は、2020年までに指導的地位に占める女性の割合を少なくとも30%程度にする目標を掲げていましたが、この目標は未達成に終わりました。その後、第6次男女共同参画基本計画において、2020年代の早期に指導的地位に女性が占める割合を30%程度とするという新たな目標が設定されました。この目標達成に向けて、政府は企業への支援策の強化や、女性活躍推進のための環境整備などを進めています。
女性活躍推進法に基づき、企業には女性活躍推進のための行動計画の策定・公表が義務付けられています。 行動計画には、女性の採用比率や管理職比率などの目標値を設定し、その達成に向けた具体的な取り組みを記載する必要があります。また、企業は、自社の女性活躍推進の状況に関する情報を公表することも求められています。
女性管理職を増やすには?方法を解説
女性管理職を増やすための具体的な方法を解説します。多様な取り組みを組み合わせ、企業風土や状況に合った施策を実行することが重要です。
家庭と仕事を両立しやすい環境を整える
出産・育児・介護といったライフイベントを経ても、女性がキャリアを継続できる環境づくりが重要です。柔軟な働き方を推進し、時間や場所にとらわれない働き方を支援しましょう。
具体的な取り組み
- フレックスタイム制の導入
- リモートワーク制度の導入
- 時短勤務制度の導入
- 企業内保育所の設置
- 介護支援制度の充実
キャリアアップ施策を充実させる
女性社員のキャリアアップを支援する研修やセミナー、メンタリング制度などを積極的に導入しましょう。管理職候補育成プログラムなどを設け、計画的に育成することも効果的です。
具体的な取り組み
- 管理職向け研修の実施
- リーダーシップ研修の実施
- スキルアップのための研修・セミナーへの参加支援
- 社内メンター制度の導入
- 外部機関との連携による研修機会の提供
ロールモデルとなる人材を育てる
女性社員にとって、キャリア形成の目標となるロールモデルの存在は重要です。社内で活躍する女性管理職を積極的に紹介し、彼女たちの経験や考え方を共有する機会を設けましょう。
具体的な取り組み
- 社内報やイントラネットでの女性管理職のインタビュー記事掲載
- 講演会や座談会の開催
- メンター制度におけるロールモデルとしての活躍促進
人事評価基準を見直す
評価基準が、長時間労働を前提としたものになっていないかを確認し、成果や能力に基づいた公正な評価制度を構築しましょう。評価プロセスにおける透明性を確保し、評価結果についてフィードバックを行うことも重要です。
具体的な取り組み
- 評価項目の見直し
- 評価者研修の実施
- 多面評価制度の導入
- 評価結果に関するフィードバックの実施
女性社員の活躍の場を広げる
営業や企画といった、これまで男性社員が中心だった部署への女性の配置を積極的に進めましょう。また、新規プロジェクトへの参加を促すなど、活躍の場を広げることで、キャリアアップの機会を増やすことができます。
具体的な取り組み
- 社内公募制度の活用
- ジョブローテーション制度の活用
- 新規プロジェクトへの女性社員の積極的な登用
既存の経営層の意識を変えていく
女性管理職を増やすためには、経営層の理解と協力が不可欠です。アンコンシャス・バイアスに関する研修などを実施し、女性活躍推進の重要性を理解してもらうことが重要です。また、経営層自身が率先して女性社員の育成に取り組む姿勢を示すことも重要です。
具体的な取り組み
- ダイバーシティ研修の実施
- 女性活躍推進に関する目標設定と進捗管理
- 経営層による女性社員との面談機会の設置
施策 | 内容 | 期待される効果 |
---|---|---|
在宅勤務制度 | 自宅で業務を行うことを認める | 育児や介護との両立を支援 |
フレックスタイム制度 | コアタイム以外の労働時間を自由に設定できる | 柔軟な働き方を可能にする |
管理職向け研修 | 管理職に必要なスキルを習得するための研修 | 女性社員の管理職への登用を促進 |
メンター制度 | 先輩社員が後輩社員を指導・支援する | 女性社員のキャリア形成を支援 |
女性管理職が少ない理由
日本では、女性管理職の割合が諸外国に比べて低い水準にとどまっています。その背景には、様々な要因が複雑に絡み合っています。ここでは、女性管理職が少ない主な理由を3つの観点から解説します。
日本社会の性別役割分業の意識がまだ強いから
日本社会には、未だに根強い性別役割分業意識が存在します。「男性は仕事、女性は家庭」という固定観念は、女性が管理職を目指す上で大きな障壁となっています。家事や育児の負担が女性に偏っていることで、キャリアアップに時間を割くことが難しい女性が多いのが現状です。また、長時間労働が常態化している企業も多く、家庭との両立が困難な状況も、女性管理職の少なさにつながっています。このような状況を変えるためには、企業側が柔軟な働き方を導入したり、男性社員の育児参加を促進したりするなど、社会全体の意識改革が必要です。
加えて、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)も女性管理職の登用を阻む一因となっています。採用や昇進の際に、無意識のうちに男性を優遇してしまう傾向があるため、女性が正当な評価を受けられないケースも少なくありません。アンコンシャス・バイアスへの対策として、研修の実施や評価システムの見直しなどが有効です。
年功型人事制度と女性のライフプランが合わないから
日本の多くの企業では、年功序列型の賃金体系や人事制度が採用されています。長年の勤務実績が評価されるこの制度は、出産や育児などでキャリアを中断せざるを得ない女性にとって不利に働く場合があります。出産・育児によるブランク期間が昇進の機会を逃す原因となり、管理職への道が閉ざされてしまうケースも少なくありません。また、管理職に求められる責任や負担の大きさも、ライフイベントを迎える女性にとってハードルが高いと感じる要因の一つです。
ライフイベント | 年功序列型人事制度との関係性 |
---|---|
結婚 | 転勤などによりキャリアプランの変更を余儀なくされる場合がある |
出産 | 育児休業取得により昇進が遅れる可能性がある |
育児 | 時短勤務などにより責任ある役割を担いにくい場合がある |
介護 | 介護休業取得により昇進が遅れる可能性がある |
成果主義の導入やジョブ型雇用の推進など、個人の能力や成果を適切に評価する人事制度への転換が求められています。
出産や子育てで退職する女性社員が多いから
出産や子育てを機に退職を選択する女性社員が多いことも、女性管理職が少ない理由の一つです。育児と仕事の両立が困難であると感じる女性社員は多く、企業側が十分な支援体制を整えていないことが、退職の大きな要因となっています。保育園の不足や待機児童問題も深刻であり、安心して子どもを預けられる環境が整っていないことも、女性が働き続けることを難しくしています。
企業内保育所の設置や育児支援制度の充実など、仕事と子育てを両立しやすい環境を整備することで、女性社員の離職を防ぎ、優秀な人材を確保することが重要です。また、復職支援制度の拡充や再雇用制度の導入なども、女性がキャリアを継続していく上で重要な役割を果たします。テレワークやフレックスタイム制の導入など、柔軟な働き方を推進することも、女性社員の活躍を促進し、管理職への登用を後押しする上で効果的です。
女性管理職を増やすメリット
女性管理職を増やすことは、企業にとって多くのメリットをもたらします。女性活躍推進は、もはや企業の社会的責任というだけでなく、企業の成長戦略においても重要な要素となっています。以下、女性管理職を増やすことで得られるメリットを詳しく解説します。
女性社員にとってのロールモデルができる
女性管理職が増えることで、女性社員にとってキャリアアップのイメージが湧きやすくなり、目標となるロールモデルの存在が生まれます。キャリアアップを目指す女性社員にとって、同じ女性が管理職として活躍している姿を見ることは大きな刺激となり、モチベーション向上に繋がります。また、ロールモデルの存在は、社内の活性化にも繋がります。後輩社員は、先輩社員のキャリアパスを参考に自身のキャリアプランを設計することができ、企業全体の成長にも寄与します。
ダイバーシティ推進ができる
女性管理職の増加は、ジェンダーダイバーシティの推進に大きく貢献します。多様な視点や価値観を取り入れることで、意思決定の質が向上し、イノベーションが促進されます。また、異なるバックグラウンドを持つ人材が活躍できる環境は、企業の魅力向上にも繋がり、優秀な人材の確保にも有利に働きます。性別だけでなく、年齢、国籍、経験など、様々な属性の人材が活躍できるインクルーシブな職場環境づくりは、企業の持続的な成長に不可欠です。
ESG投資で投資家に注目されやすくなる
ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの要素を考慮した投資のことです。女性管理職の登用は「S」の項目に該当し、ESG経営を重視する投資家から高い評価を得られる可能性が高まります。ESG投資は近年ますます注目を集めており、企業の持続可能性を評価する上で重要な指標となっています。女性活躍推進は、企業価値向上に繋がる重要な取り組みと言えるでしょう。
人材の流出防止ができる
女性が働きやすい環境は、優秀な女性人材の定着に繋がります。管理職への昇進機会が平等に与えられ、キャリアアップを目指せる環境であれば、女性社員はより長く企業に貢献したいと考えるでしょう。逆に、女性が活躍できない環境では、優秀な人材の流出に繋がりかねません。人材の確保と育成は、企業の成長にとって不可欠であり、女性が活躍できる環境づくりは、その重要な要素の一つです。
従業員全体が長く働ける職場環境になる
女性が働きやすい環境は、男性にとっても働きやすい環境です。例えば、育児休暇制度や時短勤務制度は、女性だけでなく男性も利用することができます。ワークライフバランスを重視した職場環境は、従業員全体の満足度向上に繋がり、離職率の低下にも貢献します。結果として、生産性向上や企業イメージの向上にも繋がるため、企業にとって大きなメリットとなります。
メリット | 詳細 |
---|---|
ロールモデルの創出 | 女性社員のキャリアアップ意欲向上、社内活性化 |
ダイバーシティ推進 | 意思決定の質向上、イノベーション促進、企業魅力向上 |
ESG投資での高評価 | 投資家からの注目度向上、企業価値向上 |
人材流出防止 | 優秀な女性人材の定着、人材確保と育成の強化 |
従業員満足度向上 | ワークライフバランスの充実、離職率低下、生産性向上 |
女性管理職を増やしている企業の事例
数多くの企業が女性管理職を増やすための取り組みを行っていますが、ここでは具体的な事例を5社紹介します。
セブン&アイ・ホールディングス
セブン&アイ・ホールディングスは、グループ全体で女性の活躍推進に取り組んでいます。具体的には、2021年度に女性管理職比率30%という目標を掲げ、育成プログラムの実施や、管理職候補の女性社員への研修などを実施しています。また、仕事と育児・介護の両立支援制度も充実させており、時短勤務制度や在宅勤務制度などを導入しています。これらの取り組みの結果、女性管理職比率は年々増加しており、多様な人材が活躍できる企業として注目を集めています。
サイネオス・ヘルス・コマーシャル株式会社
製薬業界でCRO(医薬品開発業務受託機関)事業を展開するサイネオス・ヘルス・コマーシャル株式会社は、女性社員の比率が高いという特徴があります。女性が働きやすい環境づくりに注力しており、育児休業や時短勤務制度の取得を推奨しています。また、管理職候補の女性社員を対象とした研修プログラムや、メンター制度などを導入し、キャリアアップを支援しています。その結果、女性管理職比率は業界平均を大きく上回っています。
ニチイ学館
介護業界大手のニチイ学館は、女性従業員の割合が非常に高い企業です。女性管理職の育成にも力を入れており、階層別研修や、リーダーシップ研修などを実施しています。また、育児と仕事の両立支援制度も充実させており、短時間勤務制度や、子の看護休暇制度などを導入しています。これらの取り組みの結果、多くの女性社員が管理職として活躍しています。
ケイアイスター不動産株式会社
不動産業界で成長を続けるケイアイスター不動産株式会社は、積極的に女性を登用しています。出産・育児支援制度や時短勤務制度を導入し、女性が働きやすい環境を整備しています。また、社内研修制度も充実させており、女性社員のスキルアップを支援しています。これらの取り組みの結果、女性管理職の数は年々増加しており、多様な視点を取り入れた経営を実現しています。
スタジオアリス
子供写真スタジオ大手のスタジオアリスは、パート・アルバイト社員も含めた女性活躍推進に力を入れています。柔軟な働き方を推進し、短時間勤務や週3日勤務など、多様な働き方を認めています。また、正社員登用制度も積極的に活用し、パート・アルバイトから正社員、そして管理職へとキャリアアップする女性社員も多くいます。これにより、現場の声を経営に反映できる体制を構築しています。
企業名 | 主な取り組み | 成果 |
---|---|---|
セブン&アイ・ホールディングス | 女性管理職比率目標の設定、育成プログラムの実施、両立支援制度の充実 | 女性管理職比率の増加 |
サイネオス・ヘルス・コマーシャル株式会社 | 働きやすい環境づくり、育児休業・時短勤務の推奨、キャリアアップ支援 | 女性管理職比率が業界平均を上回る |
ニチイ学館 | 女性管理職の育成、両立支援制度の充実 | 多くの女性社員が管理職として活躍 |
ケイアイスター不動産株式会社 | 積極的な女性登用、出産・育児支援、時短勤務制度、社内研修制度 | 女性管理職の増加、多様な視点の経営 |
スタジオアリス | パート・アルバイトも含めた女性活躍推進、柔軟な働き方、正社員登用制度 | 現場の声を経営に反映 |
これらの企業以外にも、多くの企業が女性管理職を増やすための取り組みを行っています。各企業の取り組みを参考に、自社に合った施策を実施していくことが重要です。
まとめ
日本では、女性管理職の割合が依然として低い水準にとどまっています。政府も目標値を掲げて推進していますが、企業側が積極的に取り組むことが重要です。 女性管理職を増やすためには、仕事と家庭の両立支援、キャリアアップ支援、ロールモデル育成、人事評価の見直しなど、多角的なアプローチが必要です。
女性管理職が少ない背景には、根強い性別役割分業意識や、年功序列制度と女性のライフプランとのミスマッチ、出産・育児による退職などが挙げられます。 これらの課題を解決し、女性が能力を最大限に発揮できる環境を整備することが、企業の成長にとって不可欠です。
女性管理職を増やすことは、女性社員のロールモデルとなるだけでなく、企業全体のダイバーシティ推進、ESG投資の観点からも重要です。 人材の流出防止や、従業員が長く働ける職場環境づくりにもつながります。 セブン&アイ・ホールディングスやサイネオス・ヘルス・コマーシャル、ニチイ学館、ケイアイスター不動産、スタジオアリスなど、 既に積極的に女性管理職登用に取り組んでいる企業の事例は、多くの企業にとって参考になるでしょう。
今後、日本企業が国際競争力を維持・向上させていくためには、女性活躍推進は避けて通れない課題です。 多様な人材が活躍できるインクルーシブな職場環境づくりを通じて、持続可能な社会の実現に貢献していくことが期待されます。