福利厚生費の勘定科目の適切な選択や経費計上は、企業の税務において重要です。この記事を読めば、福利厚生費の定義、税法上の位置づけ、経費にできる具体例とできないケース、仕訳例から法定福利費との違いまで明確に理解できます。結果として、税務調査での指摘リスクを減らし、適切な節税に繋げる知識が身につきます。
Contents
福利厚生費の基本概念と目的

企業経営において、従業員の満足度向上や人材確保は非常に重要な課題です。「福利厚生費」は、これらの課題解決に貢献する勘定科目の一つとして、多くの企業で活用されています。この章では、福利厚生費の基本的な考え方、企業が福利厚生制度を導入する目的、そして税法上の取り扱いについて詳しく解説します。
福利厚生費の定義
福利厚生費とは、企業が従業員に対して、給与や賞与といった金銭報酬以外に提供する様々なサービスや便宜にかかる費用を指します。これには、従業員の生活の安定、健康増進、勤労意欲の向上、レクリエーションなどを目的とした支出が含まれます。会計処理上、これらの費用は原則として「販売費及び一般管理費」の一部として計上されます。重要なのは、従業員全体の福祉を目的としている点であり、特定の役員や従業員のみを対象とするものは、福利厚生費として認められない場合があります。
企業が福利厚生を行う背景
企業が福利厚生制度を充実させる背景には、いくつかの重要な経営戦略上の目的があります。第一に、優秀な人材の確保と定着率の向上です。魅力的な福利厚生は、求職者にとって企業の魅力度を高め、既存従業員の離職を防ぐ効果が期待できます。第二に、従業員のモチベーション向上と生産性の向上です。働きやすい環境や生活支援は、従業員のエンゲージメントを高め、結果として業務効率の改善に繋がります。さらに、健康経営の推進や企業イメージの向上、従業員とその家族の生活満足度の向上も、企業が福利厚生に投資する大きな理由です。これらは、企業の持続的な成長と競争力強化に不可欠な要素と認識されています。
税法上の位置づけ
福利厚生費は、税法上、一定の要件を満たすことで損金として算入することが認められています。これにより、企業は法人税の負担を軽減できるメリットがあります。主な要件としては、「全従業員を対象としていること(機会の均等性)」、「支出される金額が社会通念上妥当であること」、「企業の業務遂行上必要なものと認められること」などが挙げられます。一方で、これらの要件を満たさない場合や、実質的に給与や交際費とみなされるような支出は、福利厚生費として認められず、従業員への給与として源泉所得税の課税対象となったり、損金算入が否認されたりする可能性があります。したがって、福利厚生費を計上する際には、税法上の規定を正しく理解し、適切な運用を心がけることが極めて重要です。
勘定科目としての福利厚生費の位置づけ

福利厚生費は、企業会計において従業員の福祉向上を目的とした費用として扱われ、その会計処理は企業の財務状況を正確に把握する上で非常に重要です。勘定科目としての福利厚生費を正しく理解し、適切に処理することは、税務上の問題を回避し、健全な経営判断を行うための基礎となります。この章では、福利厚生費が会計帳簿や財務諸表上でどのように位置づけられるのか、具体的な表示区分や他の費用との関連性、経理担当者が実務で注意すべき点を詳しく解説します。
損益計算書での表示区分
福利厚生費は、企業の一定期間の経営成績を示す財務諸表である損益計算書(P/L)において、原則として「販売費及び一般管理費」(販管費)の区分に計上されます。販売費及び一般管理費は、企業の主たる営業活動から生じる収益(売上高)から売上原価を差し引いた売上総利益の次に表示される費用項目群です。福利厚生費がここに分類されるのは、それが製品の製造に直接要する費用(製造原価)ではなく、企業全体の事業運営を円滑に行うために間接的に発生する費用であるという性格を持つためです。
具体的には、本社部門や営業部門、管理部門など、製品製造に直接関与しない従業員のために支出された福利厚生関連の費用が該当します。例えば、これらの部門の従業員を対象とした社員旅行の費用や健康診断費用などが典型例です。ただし、工場で働く製造部門の従業員に関する福利厚生費については、製造原価の一部として「労務費」などに含めて処理されるケースもあります。この場合、福利厚生費は製品のコストを構成する要素の一つとして扱われます。どちらの区分に計上するかは、その費用が企業のどの活動領域に貢献しているかという実態に基づいて判断することが重要です。
経理担当者は、自社の会計方針や費用の性質を正確に把握し、福利厚生費を損益計算書の適切な区分に振り分ける必要があります。これにより、財務諸表の信頼性が高まり、より精度の高い経営分析や予算策定に繋がります。
一般管理費との違い
福利厚生費は、前述の通り「販売費及び一般管理費」に分類されることが一般的ですが、このうち「一般管理費」の性質を強く持ちます。一般管理費とは、企業の管理活動全般に関して発生する費用を指し、企業の存続と運営に不可欠な経費です。福利厚生費と他の一般管理費との「違い」というよりは、福利厚生費が一般管理費を構成する多様な費用項目の一つであると理解するのが適切です。
一般管理費には、福利厚生費の他にも以下のような勘定科目が含まれます。
- 役員報酬、給料手当、賞与
- 法定福利費(社会保険料の会社負担分など)
- 退職給付費用
- 地代家賃、賃借料
- 水道光熱費
- 旅費交通費
- 通信費
- 消耗品費
- 租税公課(印紙税、固定資産税など)
- 減価償却費
- 支払手数料
- 会議費
- 交際費
これらの費用項目の中で、福利厚生費は特に従業員の労働環境の改善、勤労意欲の向上、健康維持などを目的とした支出という点で特徴づけられます。他の一般管理費、例えば給料手当が労働の直接的な対価であるのに対し、福利厚生費は間接的な形で従業員に還元されるものです。また、交際費が主に社外の取引先等との関係構築を目的とするのに対し、福利厚生費は原則として自社の従業員全体を対象とする点で区別されます。この性質の違いを理解することが、適切な勘定科目の選択と経費処理に繋がります。
経理担当が押さえるべきポイント
経理担当者が福利厚生費の会計処理を行う際には、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。これらを遵守することで、税務調査での指摘リスクを低減し、社内不正の防止にも貢献します。
第一に、福利厚生費として認められるための要件を正確に理解することです。具体的には、全従業員を対象としているか(機会の均等性)、社会通念上妥当な金額の範囲内か、企業の福利厚生規程に基づいて支出されているか、といった点が重要になります。これらの要件を満たさない場合、福利厚生費ではなく給与や交際費として扱われ、源泉所得税の課税対象となったり、損金算入額に制限が生じたりする可能性があります。
第二に、証拠書類の適切な管理と保管です。支出の事実を証明するために、領収書、請求書、稟議書、参加者名簿などを確実に保管し、いつでも提示できるようにしておく必要があります。特に、社員旅行や忘年会など、参加者や内容が問われる費用については、詳細な記録が求められます。
第三に、福利厚生費と隣接する勘定科目(給与、交際費、会議費など)との明確な区分です。例えば、特定の役員や従業員のみを対象とした高額な飲食費は、福利厚生費ではなく役員報酬や給与、あるいは交際費として処理すべき場合があります。この判断を誤ると、追徴課税のリスクが生じます。
第四に、社内規程の整備と運用です。福利厚生に関する規程を明確に定め、それに従って運用することで、支出の基準が明確になり、税務上の説明もしやすくなります。慶弔見舞金の支給基準や社員旅行の実施要領などを文書化しておくことが望ましいです。
最後に、消費税の取り扱いにも注意が必要です。福利厚生費の中には、課税仕入れに該当するものとそうでないもの(例えば、慶弔見舞金のような現金支給)が混在します。仕訳入力の際には、それぞれの取引に応じた正しい消費税区分を選択することが、仕入税額控除を適切に行うために不可欠です。これらのポイントを日常の経理業務で意識し、不明な点は税理士などの専門家に相談しながら進めることが肝要です。
経費計上できる福利厚生費の代表例

企業が従業員の労働環境改善やモチベーション向上のために支出する福利厚生費は、税務上経費として計上できるものが数多く存在します。ただし、福利厚生費として認められるためには一定の要件を満たす必要があり、その範囲を正しく理解することが重要です。ここでは、経費計上できる代表的な福利厚生費の具体例を、それぞれのポイントとともに解説します。
社内イベント費用
従業員同士の親睦を深め、社内コミュニケーションを活性化させることを目的としたイベント費用は、福利厚生費として認められる代表的なものです。全従業員が参加対象であり、社会通念上妥当な金額であれば、経費として処理できます。
忘年会と新年会
年末年始に行われる忘年会や新年会の費用は、福利厚生費として一般的なものです。飲食代、会場費、余興のための費用などが該当します。ただし、一部の役員や特定の部署のメンバーだけを対象とした場合や、あまりにも豪華で高額な場合は、交際費や給与として扱われる可能性があるため注意が必要です。あくまでも、全従業員を対象とした慰安という目的が明確であることが求められます。
社員旅行
従業員の慰安や研修を兼ねて実施される社員旅行も、一定の要件を満たせば福利厚生費として計上できます。主な要件としては、旅行期間が4泊5日以内であること、全従業員の過半数が参加していること、そして企業側の負担額が社会通念上妥当な範囲(一般的には1人あたり10万円程度が目安とされますが、旅行内容や経済状況により変動します)であることなどが挙げられます。これらの要件を満たさない場合、例えば不参加者に金銭を支給した場合はその金銭が給与課税の対象となったり、役員だけで実施した豪華な旅行は役員賞与とみなされたりするリスクがあります。
健康増進関連費用
従業員の健康維持・増進を目的とした費用も、福利厚生の一環として認められます。従業員が心身ともに健康な状態で業務に取り組めるようサポートすることは、企業の生産性向上にも繋がります。
定期健康診断
労働安全衛生法で義務付けられている定期健康診断の費用は、福利厚生費として経費計上できます。全従業員を対象とし、企業が費用を直接医療機関に支払うのが原則です。人間ドックの費用についても、全従業員が受診可能で、かつその費用が著しく高額でない場合には福利厚生費として認められるケースがあります。ただし、年齢や役職によって検診内容に大きな差を設けたり、一部の従業員のみを対象としたりする場合は、給与として課税される可能性があるため、公平性が重要となります。
スポーツ施設利用補助
従業員の健康増進やリフレッシュを目的として、スポーツジムの利用料やフィットネスクラブの会費などを企業が補助する場合、これも福利厚生費として認められることがあります。全従業員が公平に利用できる機会が提供されていることが前提です。特定の従業員のみが利用できるような制度や、補助額が社会通念上妥当な範囲を超えている場合は、その従業員への給与とみなされる可能性があります。法人契約を結び、従業員が割安で利用できるようにする形態も一般的です。
慶弔関連費用
従業員やその家族の慶事や弔事に対して企業が支出する金品も、福利厚生費として計上できます。これらの費用は、社内規程に基づいて、全従業員に対して公平に支給されることが重要です。
結婚祝い金
従業員の結婚に際して支給されるお祝い金は、福利厚生費として認められます。支給額は、企業の規模や慣習、他の従業員との均衡を考慮し、社会通念上妥当な金額である必要があります。あまりにも高額な場合は、給与として課税される可能性があるため、社内規程で明確な基準を定めておくことが望ましいでしょう。
弔慰金
従業員本人やその家族が亡くなった際に支給される弔慰金や見舞金も、福利厚生費として計上できます。これも結婚祝い金と同様に、社内規程に基づき、社会通念上妥当な金額であることが求められます。業務上の死亡か業務外の死亡かによって、非課税とされる金額の範囲が異なる点にも留意が必要です。
住宅と通勤に関する福利厚生
従業員の生活基盤を支えるための住宅関連の補助や、通勤にかかる費用の補助も、福利厚生費として認められる重要な項目です。
社宅家賃補助
企業が従業員に社宅や寮を提供する場合、その家賃の一部を企業が負担する費用は福利厚生費として計上できます。ただし、従業員から一定額以上の家賃(賃貸料相当額の50%以上が一般的な目安)を徴収していることが条件となります。無償で提供したり、徴収する家賃が著しく低かったりする場合は、その差額が従業員の給与として課税されることになります。役員社宅の場合は、従業員とは異なる計算方法が適用されるため、専門家への確認が必要です。
通勤手当の非課税枠
従業員の通勤にかかる費用を企業が支給する通勤手当は、一定の限度額までは所得税が非課税となり、企業側も福利厚生費として経費計上できます。非課税となる限度額は、交通機関を利用する場合や、マイカー・自転車などで通勤する場合の距離に応じて定められています。この非課税限度額を超えて支給する部分については、給与として課税されるため、正確な計算と管理が必要です。最も経済的かつ合理的な経路及び方法による運賃等の額であることが求められます。
経費計上できない支出の具体例と判定基準

福利厚生費として計上したつもりの支出が、税務調査などで否認されてしまうケースは少なくありません。ここでは、福利厚生費として認められず、他の勘定科目で処理すべき支出や、そもそも経費として認められない支出の代表的な具体例と、その判定基準について詳しく解説します。これらのケースを理解することは、適切な経費処理と税務リスクの回避に不可欠です。
交際費とみなされるケース
福利厚生費と交際費は、支出の対象や目的によって区別されますが、その境界線が曖昧な場合もあります。特定の取引先や役員、一部の従業員のみを対象とした慰安や接待と判断されるものは、福利厚生費ではなく交際費として扱われる可能性が高くなります。
判定基準としては、以下の点が挙げられます。
- 支出の対象者が限定的であるか:全従業員を対象とせず、特定の役職者や取引先の接待を目的とした飲食費や贈答品などは交際費に該当します。例えば、取引先の担当者との会食やゴルフコンペの費用などがこれにあたります。
- 業務遂行上の必要性:企業の円滑な事業運営や、取引関係の維持・構築を主目的とする場合、交際費としての性格が強まります。福利厚生は従業員の労働環境改善や勤労意欲向上を目的とする点で異なります。
- 社会通念上の妥当性:支出額が福利厚生の範囲を著しく超え、接待としての要素が強いと判断される場合も交際費となります。
具体例としては、以下のようなものが考えられます。
- 取引先の役員を招いて開催した宴会費用
- 得意先への過度なお中元やお歳暮、手土産代
- 特定の役員や従業員と取引先関係者のみが参加する旅行や観劇の費用
これらの支出は、税法上、交際費として損金算入に限度額が設けられているため、福利厚生費として処理すると税務上の指摘を受けるリスクがあります。特に中小企業においては、交際費の損金算入枠を意識した経費管理が重要です。
給与と課税されるケース
従業員に対する経済的利益の供与であっても、福利厚生費として認められず、実質的に給与とみなされ、従業員の所得税・住民税の課税対象となる場合があります。企業側も源泉徴収義務が発生するため注意が必要です。
判定基準としては、以下の点が重要です。
- 金銭や換金性の高いものの支給:現金や商品券、ギフトカードなど、使途が限定されず換金性が高いものは原則として給与とみなされます。ただし、食事券のように一定の要件を満たせば非課税となる例外もあります。
- 特定の従業員への利益供与:全従業員に公平に提供されるものではなく、役員や特定の従業員のみを対象とした経済的利益は、給与や役員報酬として扱われる可能性が高まります。例えば、役員にのみ無償で提供される高級社宅などが該当します。
- 社会通念を超える高額な利益:福利厚生として提供される物品やサービスの価額が、社会通念上妥当とされる範囲を著しく超える場合、その超える部分または全額が給与として課税されることがあります。
具体例としては、以下のようなケースが挙げられます。
- 全従業員に一律で支給される現金や一般的な商品券(創業記念などで支給される記念品で、処分見込価額が1万円以下かつ社会通念上妥当なものを除く)
- 役員に対してのみ提供される、市場価格と著しく乖離した低額な家賃での社宅提供
- 従業員の個人的な旅行費用を会社が全額負担する場合(社員旅行の要件を満たさないもの)
- 結婚祝金や出産祝金であっても、社会通念上、著しく高額と判断される金額
これらの支出が給与と認定されると、従業員の手取りが減るだけでなく、企業側も社会保険料の負担が増加する可能性があるため、慎重な判断が求められます。
私的利用を疑われやすいケース
福利厚生の目的から逸脱し、従業員の個人的な生活費の補填や私的な遊興費とみなされる支出は、福利厚生費として認められません。業務との関連性が希薄で、私的利用の疑いが強いものは経費否認のリスクが高まります。
判定基準としては、以下の点が考慮されます。
- 業務との直接的な関連性:支出の内容が、企業の業務遂行や従業員の労働環境改善に直接結びつかない個人的な消費である場合、私的利用と判断されます。
- 受益者が限定的かつ個人的な嗜好に基づくか:特定の個人の趣味や嗜好を満たすための支出は、福利厚生とは言えません。例えば、特定の従業員のみが利用する高価なスポーツジムの会員権などが該当する可能性があります。
- 福利厚生制度としての公平性・透明性:社内規程などで明確に定められておらず、一部の従業員にのみ便宜的に供与されるものは、私的利用とみなされやすくなります。
具体例としては、以下のような支出が考えられます。
- 従業員の個人的な飲食費や娯楽費の補助(社内イベント等とは無関係なもの)
- 業務命令ではなく、従業員が個人的に希望する資格取得費用やセミナー参加費用の全額負担(一部補助であれば認められる場合もあります)
- 従業員の自宅のインターネット回線費用や光熱費の補助(在宅勤務手当として適切な金額を支給する場合を除く)
- 役員や特定の従業員の個人的な目的での車両購入費や維持費
これらの支出は、税務調査において使途や目的を厳しく問われる傾向にあります。福利厚生費として計上するためには、その支出が従業員全体の利益に資するものであり、かつ社会通念上妥当な範囲内であることを客観的に説明できる必要があります。
福利厚生費を経費計上するための要件

福利厚生費として経費計上し、税務上のメリットを享受するためには、いくつかの重要な要件を満たす必要があります。これらの要件は、支出が企業の福利厚生目的であり、特定の個人への利益供与ではないことを示すための基準となります。要件を満たさない場合、福利厚生費として認められず、給与や交際費として課税される可能性があるため、経理担当者は細心の注意を払う必要があります。
全社員への公平性
福利厚生費として認められるための最も基本的な要件の一つが、提供される福利厚生が全社員に対して公平であることです。これは、役員や特定の社員だけを対象とするのではなく、原則として全従業員が平等に利用できる機会が提供されていなければならないことを意味します。
例えば、社員食堂の利用や社員旅行への参加資格が全社員に開かれている場合、その費用は福利厚生費として認められやすくなります。しかし、役員専用の保養施設や、一部の部署の社員のみが参加できる高額なレクリエーション活動などは、公平性を欠くと判断され、福利厚生費として否認されるリスクがあります。特定の個人への経済的利益の供与とみなされる可能性があるためです。
ただし、勤続年数や役職に応じて福利厚生の内容に合理的な範囲で差を設けることは、社会通念上相当と認められる限り許容されるケースもあります。例えば、永年勤続者に対する記念品や旅行券の贈呈などがこれに該当します。重要なのは、その差異が客観的に見て合理的であり、不当なものではないと説明できることです。
この公平性を担保するためには、福利厚生制度の利用条件や内容を社内規程で明確にし、全従業員に周知徹底することが不可欠です。
支出額の妥当性
福利厚生費として経費計上するためには、支出される金額が社会通念上妥当な範囲内であることも重要な要件です。常識を逸脱するような高額な支出は、たとえ全社員を対象としていたとしても、福利厚生費として認められない可能性があります。
例えば、社員旅行の費用が一人あたり数十万円に及ぶ豪華な海外旅行であったり、忘年会の費用が一般的な企業の飲食費の相場を著しく超えるような場合、その支出の必要性や福利厚生としての妥当性が税務署から問われることがあります。このような場合、超過した部分が役員や従業員に対する給与として課税されたり、交際費として扱われたりするリスクが生じます。
支出額の妥当性を判断する際には、企業の規模、業種、収益状況、そして同業他社や同規模の企業における福利厚生の水準などを総合的に勘案する必要があります。一律の金額基準があるわけではありませんが、一般的な常識からかけ離れていないか、という視点が重要です。不安な場合は、事前に税理士などの専門家に相談し、アドバイスを求めることをお勧めします。
社内規程の整備
福利厚生制度を適切に運用し、その費用を経費として確実に認めてもらうためには、福利厚生に関する社内規程を整備し、その規程に基づいて運用することが極めて重要です。社内規程は、福利厚生の目的、対象者、支給基準、利用手続き、金額の上限などを明文化したものであり、税務調査の際に福利厚生費であることの正当性を主張するための有力な証拠となります。
具体的には、慶弔見舞金規程、社員旅行規程、社宅管理規程、食事補助規程、レクリエーション費用補助規程などが考えられます。これらの規程には、誰が、どのような場合に、いくらまで、どのような手続きで福利厚生を受けられるのかを具体的に記載する必要があります。
規程を作成するだけでなく、その規程を全従業員に周知し、実際に規程通りに運用されている実態があることが重要です。規程と実態が乖離している場合、規程の存在意義が薄れ、福利厚生費としての計上が否認されるリスクが高まります。また、社会情勢や企業の実態に合わせて、定期的に規程内容を見直し、改定することも必要です。
領収書と証憑の保管
福利厚生費に限らず、経費計上する全ての支出について、その支払いを証明する領収書や請求書、その他の証憑書類を適切に保管することは、会計処理の基本であり、税法上の義務でもあります。これらの証憑がなければ、たとえ実際に支出があったとしても、税務上経費として認められない可能性があります。
福利厚生費に関する証憑としては、以下のようなものが挙げられます。
- 社員旅行の場合:旅行会社からの請求書、領収書、参加者名簿、旅程表、旅行報告書など
- 忘年会・新年会の場合:飲食店の領収書(参加人数や目的がわかるように記載されていることが望ましい)、参加者リストなど
- 慶弔見舞金の場合:支給規程、支給申請書、受領書、会葬礼状のコピーなど
- 健康診断費用の場合:医療機関からの請求書、領収書、受診者名簿など
これらの証憑には、支払年月日、支払先、支払金額、そして支払内容(福利厚生目的であることがわかる情報)が明確に記載されている必要があります。特に、参加者名簿や目的を記した書類は、その支出が福利厚生の一環であることを示す上で重要です。
これらの書類は、法人税法で定められた期間(原則として事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間、繰越欠損金が生じた事業年度等は10年間)保存する義務があります。電子帳簿保存法の要件を満たせば、電子データでの保存も可能です。証憑の不備は税務調査で指摘されやすいポイントであるため、日頃から整理・保管を徹底しましょう。
福利厚生費の勘定科目を用いた仕訳例

福利厚生費を会計処理する際には、適切な勘定科目を用いて仕訳を行う必要があります。ここでは、代表的な福利厚生費の支出に関する具体的な仕訳例と、消費税の取り扱いにおける注意点を解説します。正確な仕訳は、企業の財務状況を正しく把握し、税務調査においても重要なポイントとなります。
社内イベント費用の仕訳
忘年会や社員旅行など、社内イベントにかかる費用は福利厚生費として計上できます。ただし、全従業員を対象とし、社会通念上妥当な金額であることが前提です。
例1:忘年会費用として500,000円を現金で支払った場合
(借方)福利厚生費 500,000円 / (貸方)現金 500,000円
摘要:忘年会費用(従業員全員参加)
例2:社員旅行費用として、旅行代理店へ1,100,000円(うち消費税100,000円)を普通預金から振り込んだ場合
(借方)福利厚生費 1,000,000円 / (貸方)普通預金 1,100,000円
(借方)仮払消費税等 100,000円
摘要:社員旅行費用(株式会社日本旅行)
この際、不参加者に対して旅行費用の代わりに現金を支給する場合は、その現金が給与として課税される可能性があるため注意が必要です。
健康診断費用の仕訳
従業員の健康管理のために支出する健康診断費用も福利厚生費となります。労働安全衛生法で義務付けられている定期健康診断はもちろん、全従業員が利用できる人間ドックの費用補助なども対象です。
例1:従業員50名分の定期健康診断費用として、医療機関へ330,000円(うち消費税30,000円)を小切手で支払った場合
(借方)福利厚生費 300,000円 / (貸方)当座預金 330,000円
(借方)仮払消費税等 30,000円
摘要:定期健康診断費用(50名分、ABCクリニック)
例2:従業員が立て替えた人間ドック費用の一部として、10,000円を現金で補助した場合
(借方)福利厚生費 10,000円 / (貸方)現金 10,000円
摘要:人間ドック費用補助(従業員 山田太郎)
高額なオプション検査費用や、役員のみを対象とした人間ドック費用は、福利厚生費として認められず、給与課税や役員賞与とみなされるリスクがあります。
慶弔金の仕訳
従業員やその家族の慶事や弔事に対して支給する金品も、福利厚生費として処理します。社内規程に基づいて、社会通念上妥当な金額を支給することが重要です。
例1:従業員の結婚祝い金として、30,000円を現金で支給した場合
(借方)福利厚生費 30,000円 / (貸方)現金 30,000円
摘要:結婚祝金(従業員 佐藤花子)
例2:従業員の親族の逝去に際し、弔慰金として10,000円を現金で支給した場合
(借方)福利厚生費 10,000円 / (貸方)現金 10,000円
摘要:弔慰金(従業員 鈴木一郎 親族)
慶弔見舞金は、原則として現金で支給されるため、消費税は不課税となります。
消費税区分の注意点
福利厚生費の仕訳において、消費税の区分は支出の内容によって異なるため、特に注意が必要です。誤った処理は追徴課税のリスクにつながります。
- 課税仕入れとなるもの:
- 社員食堂で提供する食事の材料費や運営委託費
- 社員旅行の交通費、宿泊費、飲食費
- 社内レクリエーションの会場費、備品レンタル費
- 健康診断費用(自由診療部分)、スポーツジム利用料補助(施設利用料が課税対象の場合)
- 制服や作業服の購入費用(現物支給で一定の要件を満たす場合)
- 不課税仕入れとなるもの:
- 慶弔見舞金、傷病見舞金などの金銭による支給
- 商品券やギフト券の購入費用(購入時は非課税、従業員への支給も原則として不課税。ただし、従業員が使用する物品・サービスが課税対象の場合、その購入は課税仕入れ)
- 非課税仕入れとなるもの:
- 社宅の家賃(会社が借り上げ、従業員から一定額以上の家賃を徴収する場合の差額負担分。ただし、土地の貸付や住宅の貸付は非課税)
- 健康診断費用(社会保険診療に該当する部分)
例:社員食堂の運営を外部業者に委託し、委託料220,000円(うち消費税20,000円)を普通預金から支払った場合
(借方)福利厚生費 200,000円 / (貸方)普通預金 220,000円
(借方)仮払消費税等 20,000円
摘要:社員食堂運営委託料(株式会社デリシャスキッチン)
仕訳の際には、請求書や領収書で消費税額を確認し、適切な消費税区分で処理することが求められます。不明な場合は、税理士などの専門家に確認しましょう。
法定福利費との区別と勘定科目の選択指針

企業が従業員のために支出する費用には、福利厚生費の他に「法定福利費」という勘定科目があります。これらは従業員の福祉に関連する費用という点では共通していますが、その性質と会計処理は異なります。経理担当者としては、これらの違いを正確に理解し、適切な勘定科目を選択することが求められます。
ここでは、法定福利費の基本的な考え方と、福利厚生費との使い分けについて、具体的なケースを交えながら解説します。
社会保険料事業主負担の扱い
法定福利費の最も代表的なものが、社会保険料の事業主負担分です。これには、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料(40歳以上65歳未満の従業員が対象)、雇用保険料、労災保険料(全額事業主負担)が含まれます。また、子ども・子育て拠出金も事業主が全額負担するもので、法定福利費として処理されます。
これらの費用は、法律によって企業に支払いが義務付けられているものであり、企業の任意で提供される福利厚生とは明確に区別されます。従業員の給与から天引きされる本人負担分とは別に、企業が負担する分を「法定福利費」として損益計算書の販売費及び一般管理費に計上します。
社会保険料の事業主負担額は、従業員の給与(標準報酬月額や標準賞与額)に定められた保険料率を乗じて計算されます。この保険料率は、加入している健康保険組合や都道府県によって異なる場合があるため、常に最新の情報を確認することが重要です。
法定福利費を勘定科目として使うケース
前述の通り、社会保険料の事業主負担分を計上する際には、法定福利費の勘定科目を使用します。具体的には以下のようなケースが該当します。
- 健康保険料(事業主負担分)の支払い
- 厚生年金保険料(事業主負担分)の支払い
- 介護保険料(事業主負担分)の支払い
- 雇用保険料(事業主負担分)の支払い
- 労災保険料(全額事業主負担)の支払い
- 子ども・子育て拠出金の支払い
これらの支出は、企業の規模や業種にかかわらず、従業員を雇用している限り発生する費用です。また、障害者雇用促進法に基づく障害者雇用納付金も、法定福利費として処理されることが一般的です。これは、法定雇用率未達成の企業に課される納付金であり、法律に基づく義務的な支出という点で社会保険料と共通の性質を持っています。
法定福利費は、企業の任意で削減できるものではなく、法令を遵守する上で不可欠なコストであることを理解しておきましょう。
福利厚生費に計上すべきケース
一方、福利厚生費は、法律で義務付けられていないものの、企業が従業員の満足度向上や労働環境の改善、モチベーション維持などを目的として任意で支出する費用を指します。これらは法定福利費とは異なり、企業の経営方針や財務状況に応じて内容や金額を決定することができます。
福利厚生費として計上すべき具体的なケースとしては、本記事の「経費計上できる福利厚生費の代表例」で解説したようなものが挙げられます。
- 忘年会や新年会、社員旅行などの社内イベント費用
- 定期健康診断の費用(法律で義務付けられている範囲を超える部分や、人間ドックの補助など)
- スポーツジムの利用料補助や保養所の運営費などの健康増進関連費用
- 結婚祝い金や出産祝い金、弔慰金などの慶弔関連費用
- 社宅の家賃補助(一定の要件を満たす場合)
- 通勤手当(所得税法上の非課税限度額を超える部分は給与として課税)
- 食事補助(一定の要件を満たす場合)
- 資格取得支援費用や研修費用(業務に直接関連しない自己啓発的なものも含む場合がある)
勘定科目の選択に迷った場合は、その支出が法律で義務付けられているものか、それとも企業の任意によるものかという点を基準に判断するとよいでしょう。法定のものは「法定福利費」、任意のものは「福利厚生費」と区分するのが基本的な考え方です。ただし、福利厚生費として認められるためには、「全社員への公平性」や「支出額の妥当性」といった要件を満たす必要がある点に注意が必要です。
税務調査で指摘されやすい福利厚生費の落とし穴

福利厚生費は従業員の満足度向上や企業の魅力向上に繋がる重要な経費ですが、税務調査においてはその計上が厳しくチェックされる項目の一つです。誤った処理は追徴課税や加算税のリスクを伴うため、どのような点が指摘されやすいのかを事前に把握し、適切な経理処理を心がけることが肝要です。ここでは、税務調査で特に問題となりやすい福利厚生費の落とし穴について、具体的なケースを交えながら解説します。
高額な接待費用の按分ミス
福利厚生費と接待交際費の区分は、税務調査で最も頻繁に議論となるポイントの一つです。特に、役員や特定の従業員、あるいは取引先の関係者などが参加する飲食費や旅行費用が福利厚生費として処理されている場合、その実態が問われます。全従業員を対象としたものではなく、特定の者への供応や慰安、贈答とみなされる支出は、福利厚生費ではなく接待交際費として扱われるべきです。接待交際費は損金算入に限度額が設けられているため、この按分を誤ると意図せず税負担が増加する可能性があります。
例えば、一部の部署の達成会と称して行われた高額な飲食や、特定の取引先担当者を招待して行われた慰安旅行などが、福利厚生費として計上されているケースです。税務調査では、参加者の範囲、一人当たりの金額、開催の目的などを総合的に勘案し、その支出が社会通念上妥当な福利厚生の範囲内かどうかが判断されます。「福利厚生」という名目であっても、実質的に接待や供応にあたるものは否認されるリスクが高いことを認識しておく必要があります。支出の目的や内容を明確に記録し、適切な勘定科目に振り分けることが重要です。
役員のみの利用による否認リスク
福利厚生費として経費計上するための大原則は、「全従業員に対して公平に機会が与えられていること」です。したがって、役員やその家族のみを対象とした福利厚生制度や、実質的に役員しか利用できないような施設・サービスへの支出は、福利厚生費として認められない可能性が極めて高くなります。これらは、役員に対する経済的利益の供与、すなわち役員報酬や賞与(給与)として扱われることになり、所得税の課税対象となるだけでなく、法人税法上も損金として認められない場合があります。
具体例としては、役員専用の保養所やクルーザーの維持管理費、役員のみが加入できる高額な生命保険の保険料などが挙げられます。また、全従業員が利用可能とされている制度であっても、利用実績が役員に著しく偏っている場合や、役員でなければ利用しづらいような高額な年会費が必要な施設利用補助なども、実質的に役員への利益供与とみなされるリスクがあります。税務調査では、社内規程の整備状況だけでなく、実際の利用実態が厳しくチェックされます。形式的に全従業員対象となっていても、実態が伴わなければ否認されることを理解しておくべきです。
証憑不備による経費否認
福利厚生費に限らず、経費を計上する際には、その支出の事実と目的を客観的に証明する証憑書類の保存が絶対条件です。税務調査では、これらの証憑書類に基づいて経費の妥当性や福利厚生費としての適格性が判断されます。領収書、請求書、レシート、社内稟議書、参加者名簿、開催案内などが不足していたり、記載内容が不明瞭であったりすると、たとえ実際に福利厚生目的で支出したものであっても、その事実を税務署に証明できず、経費として認められないという事態に陥りかねません。
特に注意が必要なのは、現金で支払われることが多い慶弔見舞金や、少額でレシートが出にくい自動販売機での飲料購入費の会社負担分などです。慶弔見舞金であれば、支給規程に基づいて支給されたことを示す申請書や支給記録、会葬礼状のコピーなどを保管する必要があります。また、社員旅行の費用であれば、旅行代理店からの請求書や領収書だけでなく、参加者名簿や日程表、不参加者への対応記録なども重要な証拠となります。「これくらいなら大丈夫だろう」という安易な判断が、後々大きな問題に発展する可能性があるため、日頃から証憑書類の適切な管理を徹底することが不可欠です。書類の電子保存を行う場合も、電子帳簿保存法の要件を満たしているか確認が必要です。
中小企業が実務で押さえるべき注意点

中小企業においては、大企業ほど潤沢な予算や専門部署がない場合が多く、福利厚生費の取り扱いには特に注意が必要です。ここでは、経理担当者や経営者が実務で押さえておくべき具体的なポイントを解説します。
クラウド会計ソフトでの勘定科目設定
近年、多くの中小企業で導入が進んでいるクラウド会計ソフト(例えば、freee会計、マネーフォワード クラウド会計、弥生会計オンラインなど)を利用する場合、福利厚生費の勘定科目を正しく設定し、運用することが効率的かつ正確な経理処理の第一歩です。多くのソフトでは、初期設定で「福利厚生費」の勘定科目が用意されていますが、自社の福利厚生制度の内容に合わせて補助科目を設定すると、より詳細な管理が可能になります。
例えば、「福利厚生費」の補助科目として「社員旅行費」「慶弔見舞金」「食事補助」「健康診断費」などを設けることで、費用の内訳を把握しやすくなります。また、消費税の課税区分(課税仕入れ、非課税仕入れ、不課税など)を正確に設定することも重要です。例えば、社員への慶弔見舞金は不課税ですが、社員旅行の費用は原則として課税仕入れとなります。ソフトの設定を誤ると税額計算に影響が出るため、不明な点は税理士に確認しましょう。
定期的に勘定科目の残高や仕訳内容を確認し、誤った処理や不自然な計上がないかチェックする習慣をつけることも大切です。特に、福利厚生費と交際費、給与との区別が曖昧になりやすい費用については、慎重な判断が求められます。
年次予算管理と限度額の目安
福利厚生費は、従業員のモチベーション向上や人材確保に繋がる重要な投資ですが、無計画な支出は経営を圧迫する可能性があります。そのため、年度初めに福利厚生に関する年次予算を策定し、計画的に運用することが推奨されます。
予算策定にあたっては、過去の実績、従業員数、業種、経営状況などを総合的に勘案し、無理のない範囲で設定します。福利厚生費の限度額について明確な法的基準はありませんが、「全従業員が公平に利用できる」「社会通念上妥当な金額である」という要件を満たす必要があります。従業員一人当たりの福利厚生費の平均額や、同業他社の事例などを参考に、自社にとって適切な水準を見極めることが重要です。あまりに高額な福利厚生は、税務調査で給与や交際費として指摘されるリスクがあるため注意が必要です。
また、予算と実績を定期的に比較し、乖離が大きい場合はその原因を分析し、必要に応じて計画を修正する柔軟性も求められます。これにより、福利厚生費の費用対効果を意識した運用が可能になります。
社内規程テンプレートの活用
福利厚生費を損金として計上するためには、福利厚生制度が社内規程に基づいて運用されていることが重要なポイントとなります。中小企業においては、一から規程を作成するのは手間がかかるため、社内規程のテンプレートを上手に活用すると良いでしょう。
厚生労働省のウェブサイトでは「モデル就業規則」が公開されており、その中に慶弔休暇や慶弔見舞金に関する規定例が含まれています。また、社会保険労務士事務所や経営コンサルティング会社のウェブサイトでも、福利厚生に関する規程の雛形が提供されている場合があります。これらのテンプレートを参考に、自社の実情や導入したい福利厚生制度に合わせて内容を修正・追記します。
規程には、福利厚生の目的、対象者、利用条件、支給基準、申請手続きなどを具体的に明記し、全従業員に周知徹底することが不可欠です。規程を整備することで、従業員間の公平性を担保し、税務調査時にも経費としての正当性を主張しやすくなります。ただし、テンプレートをそのまま使用するのではなく、必ず専門家(税理士や社会保険労務士)に相談し、法的な問題がないか、自社に適した内容になっているかを確認することをおすすめします。
福利厚生費を最大限活用するチェックリスト

福利厚生費は、適切に運用することで従業員の満足度向上や企業イメージアップに繋がる重要な経費です。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、定期的な見直しと戦略的な活用が不可欠です。この章では、福利厚生費を有効活用するための具体的なチェックリストを提示し、実務におけるポイントを解説します。
月次レビュー項目
福利厚生制度の運用状況を毎月確認し、問題点や改善点を早期に発見することが重要です。形骸化を防ぎ、常に従業員のニーズに合った制度を維持するためのチェックポイントを以下に示します。
予算執行状況の確認
福利厚生費の予算と実績を比較し、計画通りの執行が行われているかを確認します。予算超過や大幅な未消化が発生している場合は、その原因を分析し、必要に応じて予算配分の見直しや制度内容の調整を検討しましょう。特に、季節性の高いイベント費用などは、年間を通じた計画的な予算管理が求められます。
制度利用状況のモニタリング
各福利厚生制度の利用率や利用状況を把握します。利用率が低い制度については、その原因を特定し、周知方法の改善、利用条件の緩和、あるいは制度自体の見直しを検討する必要があります。逆に、特定の制度に利用が集中している場合は、予算の増額や代替案の検討も視野に入れましょう。
従業員からのフィードバック収集と分析
定期的なアンケートやヒアリングを通じて、福利厚生制度に対する従業員の意見や要望を収集します。集まったフィードバックは丁寧に分析し、制度改善や新規制度導入の参考にします。従業員の声を反映させることで、より満足度の高い福利厚生制度を構築できます。
法令改正や社会情勢の変化への対応
福利厚生に関連する法令や税制は改正されることがあります。また、働き方改革や健康経営といった社会的なトレンドも福利厚生のあり方に影響を与えます。最新情報を常にキャッチアップし、自社の制度が適切であるかを確認し、必要に応じて見直しを行いましょう。
税理士とのコミュニケーションポイント
福利厚生費の税務上の取り扱いは複雑であり、判断に迷うケースも少なくありません。税務の専門家である税理士と密に連携することで、税務リスクを低減し、適切な経費処理を行うことができます。
福利厚生費の範囲に関する最新解釈の確認
福利厚生費として認められる範囲や、給与として課税されるケースの判断基準は、税法の解釈や判例によって変わることがあります。定期的に税理士に相談し、最新の情報を共有してもらうことで、誤った経費処理を防ぎます。特に、新しい福利厚生制度を導入する際には、事前に税理士に相談することが不可欠です。
新規導入予定の福利厚生制度の税務上の適格性相談
新しい福利厚生制度の導入を検討する際には、その内容が税法上、福利厚生費として認められるかどうかを事前に税理士に確認しましょう。企画段階から相談することで、税務上の問題をクリアした制度設計が可能となり、後々の税務調査での指摘リスクを回避できます。
税務調査で指摘されやすい項目の事前確認
過去の税務調査事例や、一般的に指摘を受けやすい福利厚生費の項目について、税理士からアドバイスを受けましょう。例えば、役員のみを対象とした福利厚生や、社会通念上高額すぎる支出、私的利用との区別が曖昧なケースなどが該当します。これらのリスクを事前に把握し、対策を講じることが重要です。
経費計上の妥当性に関するアドバイス
支出した費用が福利厚生費として適切かどうか、また、その金額が社会通念上妥当な範囲内であるかなど、経費計上の妥当性について税理士の客観的な意見を求めることも有効です。特にグレーゾーンと判断されるような支出については、専門家の見解を参考にすることで、より安全な経理処理が可能になります。
従業員満足度調査との連携
福利厚生制度の最終的な目的の一つは、従業員満足度の向上です。従業員満足度調査の結果を福利厚生制度の改善に活かすことで、より効果的な施策を展開できます。
福利厚生制度の満足度・利用状況の定期的な調査
従業員満足度調査の一環として、現行の福利厚生制度に対する満足度や利用頻度、改善要望などを具体的に調査します。匿名性を確保し、従業員が本音で回答しやすい環境を整えることが重要です。これにより、従業員の真のニーズを把握することができます。
調査結果に基づいた制度改善のサイクル確立
調査結果を分析し、優先的に改善すべき課題や、新たに導入すべき制度を特定します。そして、具体的な改善策を立案・実行し、その効果を次回の調査で検証するというPDCAサイクルを確立します。この継続的な改善プロセスが、従業員満足度の維持・向上に繋がります。
ニーズの高い福利厚生の特定と導入検討
調査によって明らかになった従業員のニーズに基づき、新たな福利厚生制度の導入を検討します。例えば、育児支援、介護支援、自己啓発支援、リフレッシュ休暇制度など、多様なニーズに応える制度設計が求められます。導入にあたっては、費用対効果や運用面も考慮し、慎重に検討を進めましょう。
福利厚生制度の周知徹底状況の確認
どんなに良い福利厚生制度があっても、従業員に知られていなければ利用されません。満足度調査を通じて、制度の認知度や理解度を把握し、必要であれば周知方法を見直します。社内ポータルサイトでの情報提供、説明会の開催、ハンドブックの配布など、多角的なアプローチで周知徹底を図りましょう。
まとめ

福利厚生費は、従業員の勤労意欲向上や人材確保に寄与する重要な経費であり、その勘定科目を正しく理解し運用することが企業経営において不可欠です。本記事では、福利厚生費の定義、経費計上できる具体例、税法上の要件、法定福利費との違い、そして税務調査での注意点までを解説しました。適切な処理は節税効果だけでなく、健全な企業運営の基盤となります。
福利厚生費として損金算入が認められるには、「全従業員への公平性」「支出額の妥当性」「社内規程の整備と運用」が主な要件です。これらを満たさない場合、交際費や給与として課税されるリスクが生じます。特に社員旅行や慶弔見舞金などは、内容や金額によって税務上の判断が分かれるため、個別のケースに応じた慎重な検討が必要です。
適正な経費計上と税務リスク回避のためには、領収書等の証拠書類の保管、社内規程の整備が不可欠です。複雑な判断を要する場合や制度設計に不安がある場合は、税理士などの専門家へ相談することを推奨します。本記事で解説したポイントを押さえ、福利厚生制度を効果的に活用し、企業の成長と従業員満足度の向上を目指しましょう。