「女性活躍推進法って実際にはどんな法律なの?」「自社ではどんな取り組みをすればいいの?」と疑問をお持ちではありませんか? 2015年に施行された女性活躍推進法は、2022年4月の改正を経て、企業はより一層、女性活躍に向けた取り組みを強化することが求められています。本記事では、女性活躍推進法の概要や改正内容、企業に求められる具体的な取り組みを、成功事例を交えながら分かりやすく解説します。本記事を読むことで、法律の理解を深め、自社にとって最適な女性活躍推進の取り組みを検討することができます。
Contents
女性活躍推進法とは?
女性活躍推進法の概要
女性活躍推進法とは、正式名称を「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)といい、2015年4月に成立、2016年4月に施行されました。これは、男女雇用機会均等法を改正する形で制定された法律です。女性活躍推進法は、女性の活躍を推進することを目的として、企業に対し、女性の活躍に関する状況の把握、行動計画の策定とその公表などを義務付けています。
この法律は、労働人口減少への対策、経済活性化、男女共同参画社会の実現などを目指しています。具体的には、企業に対して、女性の採用、登用、働き方の見直しなどを促し、女性がその能力を最大限に発揮できる環境づくりを推進しています。女性活躍推進法は、企業規模によって取り組み内容が異なり、従業員数が300人以上の企業は、行動計画の策定・提出、情報公表などが義務付けられています。また、従業員数が300人未満の企業は努力義務とされています。
女性活躍推進法の対象企業
女性活躍推進法の対象となる企業は、以下の通りです。
企業規模 | 対象 | 義務の内容 |
---|---|---|
300人以下 | 努力義務 | 行動計画の策定・届出・公表 |
301人以上 | 義務 | 行動計画の策定・提出・公表、情報公表 |
従業員数が301人以上の企業は、行動計画の策定・提出・公表、情報公表が義務付けられています。情報公表では、以下のいずれかを選択し公表する必要があります。
- 女性の採用状況
- 女性の継続就業状況
- 女性の労働時間等の状況
- 女性の管理職比率
従業員数が300人以下の企業は、行動計画の策定・届出・公表が努力義務とされています。努力義務とは、法的義務ではないものの、倫理的・道徳的にそのように行動することが期待されていることを指します。
女性活躍推進法が成立した背景
女性活躍推進法が成立した背景には、日本の深刻な社会課題が挙げられます。主な背景として、以下の3点が挙げられます。
日本のジェンダーギャップ指数が低い
世界経済フォーラムが発表しているジェンダーギャップ指数において、日本は2023年時点で146か国中125位と、G7の中では最下位、先進国の中でも極めて低い水準にあります。これは、経済、政治、教育、健康といった分野において、男女間で依然として大きな格差が存在することを示しています。
特に、女性の経済活動への参加状況を示す指標である「経済分野」のスコアは0.567と低く、世界123位となっています。これは、女性の労働参加率が低いこと、管理職に占める女性の割合が低いこと、男女間の賃金格差が大きいことなどが影響しています。ジェンダーギャップ指数の低さは、日本の経済成長の阻害要因の一つとして、国際社会からも厳しい目が向けられています。
管理職にある女性の割合が低い
日本の企業における管理職に占める女性の割合は、諸外国と比較して極めて低い水準にあります。内閣府の男女共同参画局が発表している「令和4年版 男女共同参画白書」によると、2022年における日本の企業における管理職に占める女性の割合は13.2%にとどまっています。これは、アメリカ合衆国の42.9%、イギリスの39.2%、フランスの45.1%(いずれも2021年時点)と比較しても、大きく水をあけられています。
女性の管理職比率が低い要因としては、
- 長時間労働や転勤が多いなど、女性にとって働きにくい企業風土
- 出産・育児・介護を担う女性に対する、職場からのサポート体制の不足
- 女性の昇進意欲の低さや、リーダーシップを発揮することに対する自信の欠如
- 男性中心型の組織文化や、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)の存在
などが指摘されています。管理職への女性の登用を促進することは、多様な視点や発想を組織の意思決定に反映させるだけでなく、企業の活性化やイノベーションの創出にもつながると期待されています。
非正規雇用労働者の割合における男女の格差
日本では、非正規雇用労働者の割合が高いことが問題視されていますが、特に女性においてその割合が高く、男女間で大きな格差が存在します。総務省統計局の「労働力調査」によると、2023年における非正規雇用労働者の割合は、男性が21.6%であるのに対し、女性は51.3%と、約2.4倍となっています。女性の非正規雇用労働者の割合が高い背景には、
- 結婚や出産を機に退職し、その後、パートタイム労働者として職場復帰する女性が多いこと
- 企業側が、子育てや介護を理由に、女性を正規雇用よりも雇用調整しやすい非正規雇用として採用する傾向があること
などが挙げられます。非正規雇用労働者は、一般的に賃金水準が低く、雇用も不安定であるため、女性の経済的な自立を阻害する要因となっています。また、社会保険の加入率も低く、将来の年金受給額が少なくなるなど、女性の老後の生活設計にも大きな影響を与えています。
これらの問題を解決するために、女性がその能力を最大限に発揮できるような社会を実現することが求められています。女性活躍推進法は、こうした状況を改善し、男女が共に活躍できる社会の実現を目指して制定されました。
女性活躍推進法の2024年までの改正
女性活躍推進法は、2015年の成立以来、企業における女性の活躍を推進するために、何度か改正が行われてきました。2024年までに予定されている改正点は、以下の通りです。
女性活躍の情報公表を強化
企業に対して、女性の活躍に関する情報公表の強化が求められます。具体的には、以下の通りです。
- 男性従業員と女性従業員の平均継続勤務年数の差
- 男女間の賃金格差(平均継続勤務年数や労働時間などを考慮した上で算出した賃金の総額の差)
これらの情報を公開することで、企業は自社の取り組み状況を客観的に評価し、改善すべき点を見つけることができます。また、求職者にとっても、企業選びの際の重要な判断材料となります。
プラチナえるぼし認定
女性の活躍推進に関する取り組みが特に優れている企業に対しては、「プラチナえるぼし認定」が付与されるようになります。プラチナえるぼし認定を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 役員に占める女性比率が20%以上であること
- 男性従業員の育児休業取得率が10%以上であること
- 女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画の策定義務のない企業であること
プラチナえるぼし認定は、企業にとって、自社の取り組みをアピールする絶好の機会となります。また、求職者にとっても、働きやすい企業を見つけるための指標となります。
対象となる事業主の拡大
これまで、女性活躍推進法の対象となる事業主は、労働者数が301人以上の企業に限られていました。しかし、2022年4月1日からは、労働者数が101人以上の企業にも適用されることになりました。さらに、2024年4月1日からは、労働者数が100人以下の企業にも適用される予定です。これにより、より多くの企業が女性活躍推進に取り組むことが期待されます。
改正時期 | 対象事業主 |
---|---|
2015年4月~ | 労働者数301人以上の企業 |
2022年4月~ | 労働者数101人以上の企業 |
2024年4月~ | 労働者数100人以下の企業 |
これらの改正により、企業は、女性の活躍推進に関する取り組みをより一層強化していくことが求められます。女性の能力を最大限に活かせるような、働きがいのある職場環境の実現が期待されます。
女性活躍推進法で企業に求められる取り組み
女性活躍推進法では、企業に対して、以下の7つの項目を柱とした行動計画の策定・届出が義務付けられています。企業規模によっては努力義務となる項目もありますが、すべての企業が女性の活躍推進に取り組むことが求められています。
1. 採用
女性の採用を促進するために、募集要項の見直しや採用選考基準の明確化などを行い、男女が平等に活躍できる採用体制を構築する必要があります。具体的な取り組みとしては、以下のものなどが挙げられます。
- 募集媒体の見直しや求人情報の掲載方法の工夫
- 女性管理職による会社説明会の実施
- 採用選考における女性の評価基準の明確化
- 女性向けのインターンシップの実施
ポジティブ・アクションとは?
ポジティブ・アクションとは、性別などによって過去の機会が奪われてきた人に対し、機会均等を確保するための優遇措置のことです。日本では男女雇用機会均等法第8条に基づき、男女の均等な機会と待遇の確保のために実施されています。女性の採用を促進するために、ポジティブ・アクションを導入する企業も増えています。
2. 継続就業
結婚、出産、育児、介護などのライフイベントに関わらず、女性が継続して就業できる環境を整備する必要があります。具体的な取り組みとしては、以下のものなどが挙げられます。
- 産前産後休暇や育児休業の取得しやすい環境づくり
- 短時間勤務制度やフレックスタイム制などの柔軟な働き方の導入
- 企業内保育所の設置や保育費用の助成
- 介護休暇制度の充実や介護支援サービスの利用補助
3. 労働時間等の働き方
長時間労働の是正や休暇の取得促進など、働き方改革を進めることで、女性が働きやすい環境を整備する必要があります。具体的な取り組みとしては、以下のものなどが挙げられます。
- ノー残業デーの設定や残業時間の削減
- 年次有給休暇の取得促進
- テレワークやフレックスタイム制などの柔軟な働き方の導入
4. マネジメントへの女性の登用
管理職への女性の登用を促進するために、女性の育成や登用の機会を拡大する必要があります。具体的な取り組みとしては、以下のものなどが挙げられます。
- 女性向けの管理職研修の実施
- メンター制度やキャリアカウンセリングの実施
- 管理職の登用基準の明確化
女性の活躍を推進するために
女性の活躍を推進するためには、単に制度を整備するだけでなく、企業全体で女性の活躍を支援する風土を醸成していくことが重要です。そのためには、管理職の意識改革や男性従業員の育児休業取得促進なども必要となります。
5. 多様なキャリアコース
女性が様々なキャリアを形成できるよう、多様なキャリアコースを整備する必要があります。具体的な取り組みとしては、以下のものなどが挙げられます。
- 総合職と一般職の区分をなくす
- ジョブローテーション制度の導入
- 副業や兼業を認める制度の導入
6. ハラスメント
セクハラやマタハラなどのハラスメントを防止するために、相談窓口の設置や研修の実施など、適切な対策を講じる必要があります。具体的な取り組みとしては、以下のものなどが挙げられます。
- ハラスメントに関する研修の実施
- 相談窓口の設置
- ハラスメントを行った従業員に対する厳正な処分
7. 女性活躍に関する情報の公表
女性の採用状況や労働時間、管理職の割合などの情報を公表することで、企業の透明性を高め、女性が働きやすい環境づくりを促進する必要があります。具体的な取り組みとしては、以下のものなどが挙げられます。
- 企業ホームページでの情報公開
- 厚生労働省への報告
情報公開の重要性
情報を公開することで、企業は自社の取り組みを客観的に評価することができます。また、他社の取り組みを参考にしたり、投資家や消費者からの意見を聞いたりすることで、より効果的な取り組みを進めることができます。
女性活躍推進法における行動計画の策定と届出
常時雇用する労働者の数が300人以下の企業は努力義務とされていますが、企業規模に関わらず、行動計画を策定し、届出をすることが推奨されています。行動計画には、以下の内容を記載する必要があります。
- 計画期間
- 現状分析
- 目標数値
- 取組内容
- 取組の実施時期
- 評価方法
行動計画は、女性の活躍推進に向けた企業の意思表示として重要な役割を果たします。行動計画を策定することで、企業は自社の課題や目標を明確化し、計画的かつ効果的に女性の活躍推進に取り組むことができます。
女性活躍推進法で企業に求められる取り組みのポイント
女性活躍推進法で企業に求められる取り組みを成功させるためには、以下のポイントを押さえることが重要です。
1. 経営トップのコミットメント
女性の活躍推進は、経営トップの強いリーダーシップとコミットメントが不可欠です。経営トップ自らが率先して女性の活躍推進に取り組む姿勢を示すことで、企業全体に意識改革が広がっていきます。
2. 従業員への周知徹底
女性活躍推進法の目的や内容、企業の行動計画について、従業員に周知徹底することが重要です。従業員一人ひとりが女性の活躍推進の重要性を理解し、積極的に取り組む姿勢を持つことが重要です。
3. 女性活躍推進のための環境整備
女性が働きやすい環境を整備するため、制度設計や設備投資などを行う必要があります。例えば、柔軟な働き方ができる制度や、育児と仕事の両立を支援する制度を導入することで、女性がより働きやすい環境を実現できます。
4. 定期的な見直しと改善
行動計画は、策定して終わりではありません。定期的に見直しを行い、状況の変化に応じて改善していくことが重要です。また、PDCAサイクルを回し、継続的に改善を図っていくことが重要です。
まとめ
女性活躍推進法は、女性が能力を最大限に発揮できる社会を実現するために、企業に対して積極的な取り組みを求める法律です。企業は、法律の趣旨を理解し、自社の課題や状況に合わせて、効果的な取り組みを進めていく必要があります。女性の活躍推進は、企業の成長だけでなく、日本社会全体の活性化にもつながる重要な取り組みです。企業は、女性活躍推進法を「やらされ仕事」と捉えるのではなく、自社の発展の機会と捉え、積極的に取り組んでいくことが求められます。
女性活躍推進法における企業の成功事例
女性活躍推進法は、企業にとって負担が大きいと感じる経営者もいるかもしれません。しかし、女性の活躍を推進することは、企業の成長や発展に大きく貢献する可能性を秘めています。ここでは、実際に女性活躍推進法を活用し、成功を収めている企業の事例を紹介します。
株式会社ワーク・ライフ・バランス
基本情報
会社名 | 設立 | 従業員数 | 資本金 | 事業内容 |
---|---|---|---|---|
株式会社ワーク・ライフ・バランス | 2003年4月 | 106名(2023年4月現在) | 4,850万円 | ワーク・ライフ・バランス支援事業、ダイバーシティ&インクルージョン推進事業、働き方改革推進事業、組織開発事業、人材育成事業、調査研究事業 |
取り組み内容
株式会社ワーク・ライフ・バランスは、「誰もが自分らしく、いきいきと働き続けられる社会の実現」を理念に掲げる企業です。女性活躍推進法に基づき、以下の取り組みを実施しています。
- 短時間正社員制度や在宅勤務制度など、柔軟な働き方を選択できる制度を導入
- 育児や介護などのライフイベント時にも働き続けられるよう、休暇制度や時短勤務制度を充実
- 管理職を含む全社員を対象に、アンコンシャス・バイアス研修やダイバーシティ研修を実施し、多様な価値観を認め合う風土を醸成
成果
これらの取り組みの結果、従業員のワーク・ライフ・バランス満足度が向上し、離職率の低下にもつながっています。また、女性の管理職登用も進み、多様な視点を取り入れた経営が可能になりました。これらの成果が評価され、同社は「プラチナくるみん」の認定も取得しています。
資生堂
基本情報
会社名 | 設立 | 従業員数 | 資本金 | 事業内容 |
---|---|---|---|---|
株式会社資生堂 | 1872年 | 45,873名(連結、2022年12月末現在) | 221億9,100万円 | 化粧品の製造・販売 |
取り組み内容
資生堂は、「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(ビューティーイノベーションでよりよい世界を)」をパーパスに掲げ、多様性を尊重する企業文化の醸成に力を入れています。女性活躍推進法に基づき、以下の取り組みを実施しています。
- 2016年から「女性活躍推進室」を設置し、女性社員のキャリア形成支援や働きやすい環境づくりを推進
- 管理職候補の女性社員を対象としたリーダーシップ研修や、メンタリングプログラムを実施し、女性リーダーの育成を強化
- 男性社員の育児休業取得を促進するため、社内セミナーや情報提供を積極的に実施
成果
これらの取り組みの結果、女性の管理職比率は年々増加しており、2022年には30%を超えました。また、男性の育児休業取得率も向上しており、仕事と家庭を両立しやすい環境が整いつつあります。これらの取り組みが評価され、「なでしこ銘柄」に選定されています。
カルビー株式会社
基本情報
会社名 | 設立 | 従業員数 | 資本金 | 事業内容 |
---|---|---|---|---|
カルビー株式会社 | 1955年 | 4,053名(連結、2023年3月末現在) | 43億1,250万円 | スナック菓子、シリアル食品等の製造販売 |
取り組み内容
カルビー株式会社は、「私たちは、“ワクワク”と“ハッピー”をお届けする、食のブランドカンパニーを目指します。」という企業理念のもと、多様な人材が活躍できる環境づくりに取り組んでいます。女性活躍推進法に基づき、以下の取り組みを実施しています。
- 時間単位で取得できる有給休暇制度や、在宅勤務制度など、柔軟な働き方を選択できる制度を導入
- 育児休業を取得しやすいように、上司や人事部が相談しやすい体制を構築
- 女性社員のキャリアアップを支援するため、管理職登用に向けた研修や、メンター制度を導入
成果
これらの取り組みの結果、女性の育児休業取得率は100%に達し、復帰率も向上しています。また、女性の管理職登用も進み、2023年には、執行役員に占める女性の割合を2025年までに20%にするという目標を掲げています。
これらの企業の事例からわかるように、女性活躍推進法を活用した取り組みは、企業の業績向上や、従業員の働きがい向上に繋がる可能性があります。企業は、自社の課題や状況に合わせて、女性活躍推進法に基づいた取り組みを積極的に進めていくことが重要です。
まとめ
この記事では、女性活躍推進法の概要、改正内容、企業に求められる取り組み、成功事例を紹介しました。 女性活躍推進法は、企業に対し、女性の活躍に関する状況の把握、行動計画の策定・届出、取り組みの実施などを義務付けています。 企業は、女性の採用や登用、働き方改革、ハラスメント対策など、多岐にわたる取り組みを求められます。 法律の施行から数年が経過し、多くの企業で女性の活躍に向けた取り組みが進展しています。 その結果、管理職に占める女性の割合や、男性の育児休業取得率は増加傾向にあります。 しかし、国際的に見ると、日本のジェンダーギャップ指数は依然として低く、女性の活躍にはまだ課題が残っています。 企業は、今後も継続的に取り組みを進め、真に働きがいのある社会を実現していく必要があります。