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知らないと損?食事補助が給与計算や税金に与える影響とは

食事補助は給与?税金はかかる?そんな疑問を抱えていませんか。この記事では、食事補助が給与計算や税金、社会保険料に与える影響を徹底解説。福利厚生としての食事補助を非課税にするための具体的な要件や、社員食堂、チケットレストラン(エデンレッドジャパン)など種類別の扱い、従業員の手取りへの影響まで分かります。条件を満たせば節税効果の高い食事補助ですが、給与として課税されるケースもあるため注意点をしっかり理解しましょう。

Contents

食事補助とは?そもそも給与の一部なの?

従業員の健康維持や満足度向上に繋がる「食事補助」。多くの企業で導入されている福利厚生ですが、これが「給与」として扱われるのかどうか、疑問に思う方もいるでしょう。結論から言うと、食事補助は必ずしも給与として扱われるわけではありませんが、支給方法や条件によっては給与とみなされ、税金や社会保険料に影響を与えることがあります。

この章では、まず食事補助の基本的な考え方と、給与明細における一般的な記載方法について解説します。

福利厚生としての食事補助の基本

食事補助とは、企業が従業員に対して提供する食事、または食事にかかる費用の一部を補助する制度のことです。これは、法律で義務付けられている法定福利厚生ではなく、企業が任意で設ける法定外福利厚生に分類されます。

主な目的は以下の通りです。

  • 従業員の健康増進
  • 食費負担の軽減による経済的支援
  • 従業員満足度(ES)やエンゲージメントの向上
  • 人材確保や定着率の向上
  • 社内コミュニケーションの活性化(社員食堂などの場合)

このように、食事補助は本来、給与とは別に、従業員の働く環境をより良くするための福利厚生施策として位置づけられています。しかし、税法上や社会保険のルールにおいては、その提供方法によって「給与(報酬)」と同じように扱われるケースがあるため注意が必要です。どのような場合に給与とみなされるのかは、後の章で詳しく解説します。

食事補助は給与明細にどう記載される?

食事補助が給与明細にどのように記載されるかは、その支給形態によって異なります。

現金で支給される場合(食事手当など):
「食事手当」「昼食手当」といった名目で、給与の支給項目の一つとして明記されるのが一般的です。この場合、原則として給与所得として扱われ、所得税や住民税の課税対象となり、社会保険料の算定基礎にも含まれます。そのため、総支給額に含まれて計算されることが多いでしょう。

現物で支給される場合(社員食堂、弁当、食事券など):
社員食堂での食事提供や、仕出し弁当の支給、あるいは「チケットレストラン(エデンレッドジャパン)」のような食事券・食事補助カードサービスを利用する場合などがこれにあたります。これらの現物支給については、一定の非課税要件(詳細は後述)を満たしていれば、給与とはみなされず、給与明細に記載されないか、福利厚生費として備考欄などに記載されるケースがあります。
ただし、非課税要件を満たさない場合は、その食事の価額(経済的利益)が給与として課税対象となり、給与明細にも反映される可能性があります。

このように、食事補助の扱いは一律ではありません。ご自身の給与明細を見て不明な点があれば、会社の経理担当者や人事担当者に確認するのが最も確実です。

知っておきたい 食事補助が給与として課税される条件

企業が従業員に提供する食事補助は、福利厚生の一環として広く導入されていますが、その支給方法や金額によっては給与として扱われ、所得税や住民税の課税対象となる場合があります。どのような場合に課税対象となるのか、具体的な条件を理解しておくことは、従業員にとっても企業担当者にとっても非常に重要です。

ここでは、食事補助が給与として課税される主なケースについて、現金支給と現物支給(食事の提供)に分けて詳しく解説します。

現金支給の食事手当は原則給与課税

企業が従業員に対し、食事代の補助として現金を支給する場合、これは一般的に「食事手当」と呼ばれます。この現金で支給される食事手当は、原則として給与所得として扱われ、所得税・住民税の課税対象となります。

給与明細には「食事手当」や「昼食手当」といった名目で記載されることが多いでしょう。なぜ現金支給が給与とみなされるかというと、従業員がその現金を食事以外の用途にも自由に使うことができるため、実質的に給与の一部と判断されるからです。

例えば、毎月5,000円の食事手当が現金で支給された場合、その5,000円は給与所得に加算され、所得税や住民税、そして社会保険料の計算基礎に含まれることになります。

食事(現物)支給でも給与として課税されるケース

社員食堂での食事提供や、仕出し弁当の支給など、現金ではなく食事そのもの(現物)で支給される場合でも、以下の条件を満たさない場合は給与として課税される可能性があります。これは、実質的に経済的な利益を従業員に与えているとみなされるためです。

具体的には、次の2つの要件(非課税要件)を両方とも満たしていない場合に、企業が負担した金額が給与として課税されます。

  1. 従業員が食事価額の半分以上を負担していない場合
  2. 企業の負担額が1か月あたり3,500円(消費税抜)を超えている場合

例えば、1食あたり600円の弁当を会社が全額負担で支給した場合、従業員の負担は0円(食事価額の半分未満)であり、要件1を満たしません。この場合、会社が負担した月額合計額(600円×支給日数)が給与として課税されます。

また、1食あたり800円の食事で従業員が400円(半分)を負担していても、月の支給日数が20日で企業負担額が月8,000円(400円×20日)となる場合、企業負担額が3,500円を超えるため、要件2を満たしません。この場合も、企業が負担した月額8,000円全額が給与として課税対象となります。(企業負担額から3,500円を差し引いた金額が課税されるわけではない点に注意が必要です。)

このように、現物支給であっても、従業員の負担割合や企業の負担上限額によっては給与課税の対象となるため、制度設計や運用には注意が必要です。

節税効果あり 食事補助を非課税にするための2つの重要要件

企業が従業員に提供する食事補助は、福利厚生の一環として多くのメリットがありますが、税務上の扱いを正しく理解しないと、意図せず給与として課税されてしまう可能性があります。しかし、所得税法で定められた一定の要件を満たすことで、食事補助を非課税扱いとし、従業員・企業双方にとって節税効果を得ることが可能です。ここでは、食事補助を非課税にするためにクリアすべき、特に重要な2つの要件について詳しく解説します。

要件1 従業員が食事費用の半分以上を負担

食事補助を非課税とするための第一の要件は、食事の提供を受ける役員や従業員が、その食事の価額(かかった費用)の50%以上を負担していることです。これは、食事補助が単なる現物給与ではなく、あくまで福利厚生としての性格を持つことを示すための基準となります。

例えば、会社が1食あたり600円相当の弁当を提供する場合、従業員は少なくとも300円以上を給与から天引きされるなどの方法で負担する必要があります。もし従業員の負担額が食事価額の半分に満たない場合、例えば200円しか負担していないケースでは、会社が負担した差額(400円)だけでなく、会社負担額の全額(400円)が給与として扱われ、所得税の課税対象となってしまいます。給与計算を行う際には、この負担割合のルールが守られているか、厳密に確認することが不可欠です。

要件2 企業の負担額が月額3,500円(税抜)以下

第二の要件は、会社(使用者)が負担する補助額が、従業員一人あたり月額3,500円(消費税抜きの金額)以下であることです。この「企業の負担額」とは、食事の総価額から従業員が負担した金額(要件1で計算した半分以上の額)を差し引いた金額を指します。

たとえ従業員が食事価額の半分以上を負担していたとしても、企業の月額負担額が3,500円(税抜)を超えてしまうと、その超えた部分だけでなく、企業がその月に負担した金額の全額が給与として課税対象となります。例えば、企業負担額が月額4,000円(税抜)となった場合、500円だけが課税されるのではなく、4,000円全額が課税所得に加算されることになるため、上限額の管理は非常に重要です。多くの企業向け食事補助サービス(例:チケットレストランなど)は、この非課税枠内で利用できるよう設計されていますが、自社で運用する場合は特に注意が必要です。

深夜勤務者の夜食代に関する非課税ルール

上記の2つの要件は、主に昼食などを想定した通常の食事補助に関するものです。これとは別に、深夜勤務を行う従業員に対して提供される夜食については、異なる非課税の規定が存在します。

所得税法基本通達36-24に基づき、残業や宿日直を行う従業員(必ずしも深夜勤務者に限定されませんが、実態として深夜勤務者が対象となることが多いです)に対して、会社が現物で支給する食事(事業主が調理して提供するものや、購入した弁当など)は、無料で提供したとしても給与として課税されないとされています。この場合、前述の「従業員の半額負担」や「企業負担月額3,500円(税抜)以下」といった要件は適用されません。

ただし、重要な注意点として、夜食代として現金を支給する場合は、この非課税規定の対象外となり、原則として給与課税の対象となります。深夜帯に働く従業員の健康維持や労働意欲向上を目的とした福利厚生施策ですが、通常の食事補助とは税務上の扱いが異なる点をしっかり理解しておく必要があります。

食事補助の種類で変わる給与 税金 社会保険料の扱い

食事補助と一口に言っても、その提供形態は様々です。社員食堂での食事提供、弁当の支給、食事券の配布、現金の支給など、種類によって給与としての扱いや税金(所得税・住民税)、社会保険料の計算方法が異なります。ここでは、代表的な食事補助の種類ごとに、それぞれの違いを詳しく解説します。

社員食堂や弁当(現物支給)の場合

企業が社員食堂を設置して食事を提供したり、仕出し弁当などを従業員に支給したりするケースは「現物支給」に該当します。この現物支給による食事補助は、一定の要件を満たせば福利厚生費として扱われ、給与として課税されません

具体的には、後述する非課税要件(従業員が食事価額の半分以上を負担し、かつ企業の負担額が月額3,500円(税抜)以下であること)を満たす必要があります。この要件を満たしている限り、食事補助分は所得税や住民税の課税対象外となり、社会保険料の算定基礎からも除外されます。

しかし、非課税要件を満たさない場合、企業が負担した金額の全額が給与として扱われ、課税対象となります。例えば、従業員の負担がゼロであったり、企業の負担額が月額3,500円(税抜)を超えたりする場合です。この場合、給与として課税される金額は、社会保険料の算定基礎となる報酬月額にも含まれることになります。なお、食事の価額は、調理にかかった費用ではなく、国税庁が定める都道府県ごとの評価額に基づいて計算される点にも注意が必要です。

食事券やチケットレストラン(エデンレッドジャパン)等の場合

食事券や、近年導入企業が増えている「チケットレストラン(エデンレッドジャパン)」のような食事補助サービスも、税務上は現物支給に準じた扱いとなります。これらのサービスは、提携している飲食店やコンビニエンスストアなどで利用できるため、社員食堂を持たない企業でも導入しやすいというメリットがあります。

これらの食事券やサービスを利用した食事補助も、社員食堂や弁当の支給と同様に、非課税要件(従業員負担50%以上、企業負担月額3,500円(税抜)以下)を満たせば、給与として課税されません。非課税となれば、所得税・住民税はかからず、社会保険料の算定基礎にも含まれません。

一方、非課税要件を満たさない場合は、企業が負担した金額(食事券の券面額やチャージ額など)が給与として課税され、社会保険料の算定基礎にも含まれます。導入する際は、非課税枠を有効活用できるような制度設計が重要です。

現金支給の場合(給与課税の影響)

「食事手当」や「昼食手当」といった名目で、食事代の補助として現金を支給するケースです。この現金支給による食事補助は、原則として全額が給与として扱われ、所得税・住民税の課税対象となります。社員食堂や食事券のような非課税措置は適用されません。

給与として扱われるため、支給された食事手当は給与明細にも記載され、源泉徴収の対象となります。さらに重要な点として、現金支給の食事手当は社会保険料の算定基礎となる報酬月額にも含まれます。これにより、従業員の健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料の負担が増加し、結果的に手取り額が減少する可能性があります。

企業にとっては、現金支給は運用がシンプルであるというメリットがありますが、税金や社会保険料への影響を考慮すると、従業員にとっては必ずしも有利な方法とは言えない場合があります。

食事補助は社会保険料の計算に含まれる?給与との関係

食事補助が給与として課税されるかどうかは所得税や住民税に影響しますが、それだけでなく社会保険料の計算にも関わってくる場合があります。「給与」とみなされるかどうかで、毎月の保険料負担が変わる可能性があるため、従業員・企業双方にとって重要なポイントです。ここでは、食事補助と社会保険料の関係について詳しく解説します。

社会保険料算定の基礎となる報酬とは

健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料は、毎月の給与などの報酬額を区切りの良い幅で区分した「標準報酬月額」に基づいて計算されます。この標準報酬月額を決定する基になるのが「報酬」です。

社会保険における「報酬」とは、被保険者が労働の対償として受け取るすべてのものを指します。これには、基本給や各種手当、残業代といった通貨(現金)で支払われるものはもちろん、通勤定期券や社宅、そして食事といった現物で支給されるもの(現物給与)も原則として含まれます。つまり、名称や支給形態にかかわらず、労働の対価とみなされるものは社会保険料の算定基礎に含まれる可能性があるのです。

現物給与としての食事補助の価額

社員食堂での食事提供や弁当の支給など、現物で食事補助が行われる場合、これも原則として「報酬」の一部とみなされます。その場合、現物で支給された食事の価値を金銭に換算し、他の給与と合算して標準報酬月額を決定する必要があります。

この現物給与の価額は、事業所が所在する都道府県ごとに厚生労働大臣が定める「現物給与の価額」に基づいて評価されます。例えば、東京都であれば「食事で支払われる報酬等」として定められた価額(令和6年度時点では1食あたり300円、1日あたり600円、月額18,000円が上限の目安)を基準に、従業員負担分を差し引いた額が報酬として扱われることになります。ただし、これはあくまで原則であり、後述する非課税の要件を満たす場合は扱いが異なります。

非課税の食事補助は社会保険料算定から除外

ここが最も重要なポイントです。所得税法において非課税とされる食事補助、つまり「従業員が食事費用の半分以上を負担」し、かつ「企業の負担額が月額3,500円(税抜)以下」という2つの要件を満たす場合、その食事補助は社会保険料の算定基礎となる報酬からも除外されます

これは、非課税の要件を満たす食事補助が、労働の対償というよりは福利厚生としての性質が強いとみなされるためです。したがって、適切に運用されている非課税の食事補助であれば、従業員の所得税・住民税だけでなく、社会保険料の負担も増えることはありません。企業にとっても、従業員の福利厚生を充実させつつ、法定福利費の増加を抑えられるというメリットがあります。

現金で支給される食事手当は、原則として給与課税され、社会保険料の算定基礎にも含まれます。しかし、現物支給や食事券などで提供され、上記の非課税要件を満たす食事補助は、税金面だけでなく社会保険料の面でも有利になることを覚えておきましょう。

従業員目線 食事補助は手取り給与にどう影響する?

福利厚生として提供される食事補助は、従業員の生活を支える嬉しい制度ですが、その支給形態によって手取り給与に与える影響は異なります。特に、税金や社会保険料の計算に関わるため、非課税か課税かは大きな違いを生みます。ここでは、従業員視点で食事補助が手取り額に具体的にどう影響するのか、シミュレーションを交えて解説します。

非課税の食事補助を受けた場合の手取りシミュレーション

所得税法で定められた要件を満たす食事補助は、給与として課税されません。これは、従業員にとって大きなメリットとなります。具体的に手取り額がどう変わるのか見てみましょう。

【前提条件】

  • 月収(額面):300,000円
  • 所得税・住民税率(合計):20% (簡略化のため)
  • 社会保険料率:15% (簡略化のため)
  • 食事補助:企業負担月額3,500円、従業員負担月額3,500円(合計7,000円相当の食事)で非課税要件を満たす

【食事補助がない場合の手取り額】

  1. 課税対象額:300,000円
  2. 所得税・住民税:300,000円 × 20% = 60,000円
  3. 社会保険料:300,000円 × 15% = 45,000円
  4. 手取り額:300,000円 – 60,000円 – 45,000円 = 195,000円

【非課税の食事補助(企業負担3,500円)を受けた場合】

  1. 課税対象額:300,000円 (食事補助の企業負担分3,500円は含まれない)
  2. 所得税・住民税:300,000円 × 20% = 60,000円
  3. 社会保険料:300,000円 × 15% = 45,000円
  4. 給与からの天引き:60,000円 + 45,000円 + 従業員負担の食事代3,500円 = 108,500円
  5. 手取り額:300,000円 – 108,500円 = 191,500円

一見、手取り額が191,500円に減ったように見えますが、これは食事代の従業員負担分3,500円が給与から天引きされているためです。しかし、従業員は実質的に企業から3,500円分の食事の補助を受けており、これは税金や社会保険料がかからない「現金の価値」と同等です。もし企業が食事補助の代わりに現金3,500円を給与に上乗せした場合、その3,500円には税金・社会保険料(合計35%)がかかり、手取りは約2,275円しか増えません。

つまり、非課税の食事補助は、税金や社会保険料の負担を増やすことなく、実質的な可処分所得を増やす効果があると言えます。上記の例では、食事補助がない場合と比較して、毎月3,500円分の価値を税負担なしで受け取っていることになります。

給与課税される食事補助の場合の手取りシミュレーション

一方、現金で支給される食事手当や、非課税要件を満たさない現物支給(従業員負担が半額未満、または企業負担が月額3,500円超)は、給与所得として扱われ、所得税・住民税、そして社会保険料の計算対象となります。

【前提条件】

  • 月収(額面):300,000円
  • 所得税・住民税率(合計):20%
  • 社会保険料率:15%
  • 食事補助:現金で月額5,000円支給

【現金で食事手当5,000円が支給された場合】

  1. 課税対象額:300,000円 + 5,000円 = 305,000円
  2. 所得税・住民税:305,000円 × 20% = 61,000円
  3. 社会保険料:305,000円 × 15% = 45,750円
  4. 手取り額:305,000円 – 61,000円 – 45,750円 = 198,250円

食事補助がない場合の手取り額(195,000円)と比較すると、手取りは3,250円増加しています。しかし、支給された食事手当の額面5,000円がそのまま手取り増になるわけではなく、税金・社会保険料として1,750円(5,000円 × 35%)が差し引かれていることがわかります。

このように、課税される食事補助は、額面上の給与は増えますが、それに伴って税金や社会保険料の負担も増加します。結果として、手取りの増加額は、支給された食事補助の額面よりも少なくなるのです。従業員にとっては、可能な限り非課税の枠内で食事補助を受ける方が、実質的なメリットが大きいと言えるでしょう。

企業担当者向け 食事補助導入時の給与計算と税務上の注意点

食事補助制度を導入・運用する際には、給与計算や税務処理において注意すべき点がいくつかあります。特に、非課税枠を正しく適用し、従業員の不利益にならないように、また企業として追徴課税などのリスクを避けるためには、正確な知識と適切な運用が不可欠です。この章では、企業の人事・労務・経理担当者が押さえておくべき具体的なポイントを解説します。

非課税枠を維持するための運用ポイント

食事補助の節税メリットを最大限に活かすためには、非課税要件を継続的に満たす運用体制が重要です。以下の点を常に意識し、適切な管理を行いましょう。

まず、従業員の負担割合と企業の負担上限額を遵守することが大前提です。従業員が食事費用の半分以上を負担し、かつ企業の月額負担額が3,500円(税抜)以下であるか、毎月の給与計算時に確認が必要です。特に、食事の価格変動があった場合や、利用日数に応じて負担額が変わる場合は注意深くチェックしましょう。

次に、食事代金の徴収方法を明確に定めます。給与からの天引きが一般的ですが、その場合は給与明細に従業員負担額を明記する必要があります。現金で徴収する場合は、管理が煩雑になりがちなので、記録を徹底することが求められます。

また、「食事」の提供であることが明確である必要があります。例えば、換金性の高い金券や、食事以外の用途にも使えるような形式での補助は、現金支給と同様に給与課税の対象となる可能性が高いため注意が必要です。チケットレストラン(エデンレッドジャパン)のような食事補助サービスを利用する場合も、そのサービスが非課税要件を満たす形で提供されているか確認しましょう。

さらに、運用ルールを従業員へ周知徹底することも大切です。なぜ従業員負担が必要なのか、非課税枠の仕組みはどうなっているのかを説明することで、従業員の理解と協力を得やすくなります。就業規則や福利厚生規程などに明記しておくことも有効です。

最後に、税務調査に備えた記録の保管も忘れてはいけません。従業員の負担額、企業の負担額、食事の提供実績などが客観的に証明できる書類(領収書、請求書、給与台帳など)を整理し、いつでも提示できるようにしておきましょう。

給与計算システムでの食事補助の設定方法

食事補助を導入する際には、利用している給与計算システムへの正しい設定が不可欠です。設定を誤ると、所得税や住民税、社会保険料の計算に誤りが生じ、後々修正や追徴のリスクが発生します。

まず、食事補助の種類に応じて課税・非課税を正しく区分して設定する必要があります。

非課税の要件を満たす食事補助(現物支給やチケットレストランなど)の場合、システム上は「非課税の現物給与」として設定します。多くの給与計算システムでは、非課税の食事補助を設定する項目が用意されています。所得税・住民税の課税対象から除外し、社会保険料の算定基礎からも除外されるように設定します。給与明細には、支給額(企業負担分)と控除額(従業員負担分)がわかるように表示するのが一般的です。

一方、現金で支給する食事手当や、非課税要件を満たさない食事補助は、通常の「手当」と同様に給与として課税対象になります。システム上は「課税支給項目」として設定し、所得税・住民税の課税対象に含め、社会保険料の算定基礎にも算入されるように設定します。

具体的な設定方法は、利用している給与計算システムのメーカーやバージョンによって異なります。必ずマニュアルを確認するか、システムベンダーに問い合わせて正確な設定方法を確認してください。特に、社会保険料の算定基礎となる「報酬月額」に、非課税の食事補助が含まれないようにする設定は重要です。

設定後は、最初の給与計算結果を必ずダブルチェックし、意図した通りに計算されているか(所得税、社会保険料、手取り額など)を確認することが大切です。

食事補助導入のメリットとデメリットの再確認

食事補助制度の導入を検討する際、または運用を見直す際には、改めてそのメリットとデメリットを整理し、自社にとって最適な形であるかを確認することが重要です。

【メリットの再確認】

  • 従業員満足度の向上:生活費の負担軽減につながり、エンゲージメント向上に寄与します。
  • 人材確保と定着率の向上:魅力的な福利厚生として、採用活動でアピールでき、離職防止にも繋がります。
  • 健康経営の推進:栄養バランスの取れた食事を提供することで、従業員の健康維持・増進をサポートできます。
  • 節税効果:非課税要件を満たせば、企業は福利厚生費として損金算入でき、従業員は所得税・住民税がかからず、社会保険料の負担も増えません。
  • 生産性の向上:昼食休憩の質が向上し、午後の業務効率アップが期待できます。

【デメリットの再確認】

  • 導入・運用コスト:社員食堂の設置・維持費、弁当業者への支払い、食事補助サービスの利用料などが発生します。
  • 管理の手間:利用状況の把握、費用精算、給与計算への反映など、管理業務が増加します。
  • 公平性の確保:勤務形態(内勤・外勤、シフト勤務など)によって利用機会に差が出たり、アレルギーや嗜好で利用できない従業員への配慮が必要になったりする場合があります。
  • 課税リスク:運用方法を誤ると、非課税と認められず追徴課税されるリスクがあります。

これらのメリット・デメリットを総合的に評価し、自社の経営状況、従業員のニーズ、企業文化に合った食事補助の形態や運用方法を選択・見直していくことが、制度を成功させる鍵となります。

まとめ

食事補助は従業員の満足度向上に繋がる有効な福利厚生ですが、その支給形態によって給与としての扱いや税金の計算が異なります。現金で支給される食事手当は、原則として給与所得とみなされ、所得税や住民税の課税対象となり、社会保険料の算定基礎にも含まれます。これにより、従業員の手取り額が減少し、企業の社会保険料負担も増加する可能性があります。

一方で、社員食堂での食事提供や弁当支給、あるいは食事券サービスなどを利用した食事補助(現物支給に近い形)の場合、「従業員が食事費用の半分以上を負担」し、かつ「企業の負担額が月額3,500円(税抜)以下」という2つの要件を満たせば、給与として課税されません。この非課税の食事補助は、所得税・住民税がかからないだけでなく、社会保険料の算定基礎からも除外されるため、従業員の実質的な手取り額が増加し、企業の法定福利費負担も軽減できるという大きなメリットがあります。

食事補助を導入する際には、これらの課税・非課税のルールを正確に理解し、給与計算や税務処理を適切に行うことが重要です。非課税枠を活用することで、従業員と企業双方にとって経済的なメリットを最大化できるため、制度設計や運用方法を慎重に検討しましょう。

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